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材料物性値の取得について 〜材料に関する取り組み〜

はじめに

材料物性値は、有限要素法において必ず入力する解析条件のひとつです。Ansys Workbenchはサンプルとして材料物性値をいくつか備えていますが、その種類は十分とは言えません。

一般的にヤング率やポアソン比といった線形構造解析で用いられる材料特性については比較的に入手しやすいと考えられます。ただし、近年では線形構造解析だけではなく降伏点以降の塑性挙動を考慮した材料非線形解析(弾塑性解析)や、繰り返し荷重による疲労寿命を予測する疲労解析など多様な解析のニーズが設計現場で高まっています。

例えば上記の解析では“応力-ひずみ曲線”(弾塑性解析で使用)、“S-N線図”(疲労解析で使用)といったように解析内容に応じた材料物性値が必要となりますが、入手が困難なケースも多いのが現状です。そのため解析ニーズはあるが材料物性値を持っていないため解析ができないといった声も聞くことがあります。

そこで本稿では材料物性値の取得に関して、これまでの弊社の取り組みの一部をご紹介します。具体的には材料特性の取得方法を以下の3つに分けて記載します。

  • 材料データベース
  • 材料物性値を計測
  • 数値材料試験による算出

材料データベース

第1の材料物性値の取得方法として、書籍や論文、またインターネット等の第三者から入手するケースが考えられます。上記の方法は無償で材料物性値を探せる可能性がある一方で、必要な情報が分散しており探すために時間を要する、また材料物性値を見つけても測定条件の詳細や参照元がわからないことが多く信頼性に欠けるといった問題点も存在します。

そこで弊社では2012年の10月中旬より金属材料を対象とした材料データベースである“Ansys Workbench対応金属材料データベース CYBERNET KEY to METALS”(以下CKTM)の販売を開始しました。本製品は金属材料を扱う世界中のエンジニアのための材料データベースであり以下の特長を持っています。


図1 弾塑性材料(応力-ひずみ曲線)

18万種以上の金属材料特性

鉄鋼、アルミニウム、チタン、銅、マグネシウム、錫、亜鉛、ニッケル、コバルトなど18万種以上の金属材料を取り扱っています。


図2 応力寿命疲労データ(S-N線図)

図3 ひずみ寿命データ(E-N線図)

またヤング率やポアソン比といった線形の材料物性値だけではなく、弾塑性解析や疲労解析で必要となる材料物性値を多く備えている点も特長です。

  • 弾塑性解析(応力-ひずみ曲線)
    2013種類(〜 15,000データ)
  • 疲労解析(S-N線図、E-N線図)
    3655種類(〜 20,000データ)

またCAEのみに特化した材料データベースではなく、図4に記載の通り多様な材料特性を備えているため、解析以外にも様々な場面での利用が期待できます。


図4 CKTMに搭載されている材料特性

高度な検索機能

CKTMはデータベースに膨大な数の材料特性を持っているため、目的の材料物性値を効率よく探すためにユニークな検索機能を備えています。例えば材料名・規格・材料グループ・化学成分・機械的性質など多くの検索基準を持っており、また複数の検索基準を組み合わせて探すことも可能です。またSmartCrossという機能により異なる規格であっても、化学成分や機械的性質、規格データから類似の材料を検索することが可能です。特にCKTMは世界各国の規格データ(57規格)を備えていることから、類似材料の検索は非常に有効な機能となります。


図5 高度な検索機能

Ansys Workbenchフォーマット(xml形式)への出力

CKTMは検索した材料物性値をAnsys Workbenchのxml書式で出力する機能を備えています。そのため、CKTMで抽出した材料物性値をAnsys Workbench環境の解析で容易にご利用いただくことが可能です。

なお、Ansys Workbench書式でエクスポートできる材料特性の種類は図6の通りです。


図6 Ansys Workbench書式に出力可能な材料特性

CKTMの最新情報は以下ページをご覧ください。
CYBERNET Total Materia Design
※2014年12月より名称変更しました。
(旧名称:CYBERNET KEY to METALS)

材料物性値を計測

第2の材料物性値の取得方法として、材料試験により計測する方法が考えられます。こちらに関しては、使用する材料を直接計測するため信頼性はありますが、計測準備のための手間や費用などの懸念点が挙げられます。更に、それ以上に重要なポイントは“材料モデルに関する知識”と“計測方法のノウハウ”の両方が必要となることです。

そのため、弊社ではこれまでシミュレーションの操作方法だけではなく、材料モデルや計測に焦点を当てた特別セミナーを開催してきました。

最近では、ゴム材料を対象とした“基礎からわかる!ゴム材料のシミュレーションセミナー”を開催しました。本セミナーは超弾性材料モデルやゴムのダメージを表現するMullins効果また、材料物性値の同定方法に関して山梨大学の吉田先生にご講演いただきました。

また、過去には“疲労解析”や“落下・衝突解析”を対象として解析および材料物性値の計測に関してJFEテクノリサーチ(株)様にご協力いただき開催しました。このようなシミュレーションと計測の両方に焦点を当てた特別セミナーに関しては今後も引き続き取り組んでいく予定です。


図7 ゴム材料のシミュレーションセミナー

数値計算による算出

第3の材料物性値の取得方法としてMultiscale.Simを用いた材料特性の算出機能をご紹介いたします。本製品は数値材料試験により複合材料の特性を算出することが可能です。FRPに代表される複合材料は様々な製品に利用されておりますが、ミクロ構造が複雑で異方性の材料特性を持っています。Multiscale.Simではミクロ構造の1セクタ分を抽出してモデリングをした後で、数値材料試験として垂直3方向とせん断3方向に荷重を負荷することで各方向の等価材料物性値を算出します。


数値材料試験による等価物性値の算出

Multiscale.Simを用いた数値材料試験を行うメリットとしては以下が挙げられます。

  • 異方性材料の場合は6方向(垂直3成分、せん断3成分)と測定方向が多いため、実測では計測コストがかかる。
  • 測定が困難な複合材の厚さ方向の試験や、純せん断試験などの応力場を数値計算上で容易に作り出すことができる。
  • 計測のノウハウを必要としない

そのため、複合材料に関する物性値を同定する際には非常に有用なツールとなっております。また図8にMultiscale.Simで算出可能な材料特性の一覧を記載しますが、線形材料だけでなく非線形材料についても対応している点も特長です。


図8 Multiscale.Simにて算出が可能な材料特性

Multiscale.Simに関しては弊社ホームページでも紹介しています。
Multiscale.Sim

またMultiscale.Simの最新機能に関しては、同誌掲載の“Multiscale.Simによる非線形マルチスケール解析”をご参照ください。

おわりに

今回は材料物性値の取得に関する弊社の取り組みについて紹介しました。また冒頭に記載の通り、お客様の解析ニーズが拡大している中でAnsysもバージョンアップ毎に搭載されている材料モデルが増加しています。そのため、今後もニーズに応えられるよう材料に関する取り組みは継続して進めていきます。今回ご紹介をしたCYBERNET KEY to METALSおよびMultiscale.Simにご興味のある方はお気軽にご連絡ください。

(CAEのあるものづくり2013年18号掲載)

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