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Ansys Workbench Mechanicalの積層断面機能を使った複合材モデル解析

Ansys Workbench Mechanicalでの積層シェル要素を使ったモデル化についてご紹介します。

はじめに

合板や繊維強化プラスチック(FRP)など、複合材の構造は一般的に薄板構造が多く、有限要素モデルを構築する際の要素タイプにシェル要素がよく使われます。
Ansys Workbench Mechanicalのシェルモデルは、Ver.13.0まで単一材料のみ対応していましたが、Ver.14.0から積層シェル要素を用いることで積層の複数材料も定義できるようになりました。
そこで今回は、積層シェル要素を使ったモデル化についてご紹介します。

積層シェルモデルの特徴

積層シェルモデルは、シェル要素の断面情報として各層の厚み、材料特性を定義します。層毎の要素作成や層間結合を行う必要はありません。
また、層毎に材料の方向を指定できるため、繊維強化プラスチックのような方向により強度が異なる積層構造の複合材にも適用することが可能です。
Ver.13.0までのAnsys Workbench Mechanical環境では積層シェルモデルに対応していませんでしたが、Ver.14.0から標準機能※として積層断面定義をサポートしました。

※ 積層断面定義の機能をご使用になる場合は、AnsysProfessional NLT以上のライセンスが必要となります。

積層シェルモデルの機能

積層断面を定義するアウトラインツリーと積層断面情報を定義するワークシートを図1に示します。設定手順は以下のとおりです。


図1 アウトラインツリーとワークシート

1. 積層断面の設定手順

  1. アウトラインに積層断面のツリーを挿入します(図1-a)。
  2. 積層断面の詳細ビュー(図1-b)において、対象となるサーフェスボディをスコープします。
  3. 積層断面の詳細ビューにおいて、[定義]>[座標系]を指定します。[座標系]では材料の主軸方向を決めるための座標系を指定します。
  4. 積層断面の詳細ビューにおいて、[定義]>[層]を指定します。[層]ではワークシート上で層情報を定義する”ワークシート”を指定します。

2. ワークシートのメニュー

ワークシートのメニューについて説明します(図1-c)。
ワークシート上では、[層] 、[材料] 、[厚さ] 、[角度]を定義します。設定手順は以下のとおりです。

  1. [層]に層番号を定義します。定義したい層の数分、層番号を追加します。番号の小さい側が底面側(③で定義した座標系の-Z側)となります。
  2. [材料]に各層毎に割り当てる材料物性を指定します。
  3. [厚さ]に各層の厚み長さを入力します。
  4. [角度]に各層の材料の方向を角度で入力します。異方性材料で使用します。

なお、層数が多く手入力に手間を要する場合を想定して、弊社が独自に作成した層情報を一括で入力できるスクリプトもご用意しております。
(詳細につきましては、“サイバネット メカニカルCAEサポートセンター”のFAQNo.111006 [Mechanical14.0の積層断面を定義するスクリプト]をご参照ください)

3. 積層断面のポスト機能

ポスト機能では、各層毎の結果の最大値、最小値、およびコンター結果が出力できます。図2に示すように、評価したい結果項目の詳細ビュー(図2-a)において、[スコープ]>[層]に層番号を入力します。ジオメトリウィンドウでは、指定した層番号の結果がコンター図で出力されます(図2-b)


図2 層番号を指定した結果出力

異方性材料の積層シェルモデル

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)など、繊維の方向に異なる強度を持たせ、繊維方向が異なるように複数枚重ねた複合材をモデル化する場合にも積層シェルモデルが有効です。モデル作成のポイントは、異方性材料の定義と材料の方向を表す主軸角度の指定になります。設定手順は以下のとおりです。

1. 異方性材料の定義

各層毎に割り当てる材料物性を定義します。Ansys Workbench Mechanicalでは、エンジニアリングデータに異方性材料特性を定義するメニューが用意されています (図3)。ここでは例として、直交異方性材料特性を定義します。

  1. ツールボックスにおいて、[線形弾性]>[直交異方性弾性]を選択します。
  2. プロパティアウトライン行において、X ,Y ,Z方向のヤング率とXY ,YZ 、XZのポアソン比およびせん断弾性係数を入力します。

図3 直行異方性弾性の定義

2. 主軸角度の指定

主軸角度の基準となる座標系を確認します。座標系の確認は、結果項目の[要素座標軸]より確認できます(図4)。要素座標軸は要素毎に持つ座標系となり、材料の方向などを決定します。この要素座標軸に基づき、主軸角度を定義します。

  1. アウトラインツリー:[結果]ブランチに[要素座標軸]を挿入します(図4-a)。
  2. ジオメトリウィンドウに、要素毎に座標軸が表示されます(図4-b)。ここで要素座標軸の向きを確認します。赤がX軸、緑がY軸、青がZ軸をそれぞれ表します。
    ※ シェルモデルの場合は、デフォルトで面直方向がZ軸を向くように要素座標が決定されます。
  3. 積層断面のワークシート上で各層毎に材料の方向を[角度]で定義します(図4-c)。ここで入力する角度の値は、要素座標系のZ軸回転角度の値です。プラスの値で角度を指定した場合は要素座標系のX軸からY軸に向かう方向を表し、マイナスの値で角度を指定した場合はその逆の方向を表します。
  4. 要素毎にX軸・Y軸の向きが異なる場合は、積層断面の詳細ビューにおいて、[定義]>[座標系]より要素座標系を定めるための適切な座標系を指定します(図4-d)。

図4 要素座標軸図

3. 異方性材料積層シェルモデルの例

直交異方性材料の積層シェルモデルの例を図5に示します。このモデルは、5層からなる円筒形状のモデルを想定し、片端固定、内側から圧力を負荷しています(図5-a)。配向を0°90°のパターンと±55°のパターンで計算を行いました。それぞれの応力結果を比較すると結果に違いが生じているのが確認できます(図5-b, 図5-c)。


図5 配向の異なるモデルの比較

おわりに

ここでは、Ansys Workbench Mechanical で薄板構造の複合材をモデル化する手法について紹介しました。特に、Ver.14.0の新機能の一つである積層断面定義の機能を使用することで積層構造のモデルを容易に作成することが可能となり、異方性材料からなる積層構造の複合材にも対応した機能であることを説明しました。本機能を積層構造の解析にぜひお役立てください。

(CAEのあるものづくり2012年17号掲載)


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