〜構造材料非線形性が考慮可能に〜ダイレクト連成要素の機能強化

はじめに

連成解析とは、複数の異なる物理現象(解析場)を相互に組み合わせて解析する手法です。近年、マシンの高性能化や解析をより現実に近づける必要性が高まったことを背景に、多くの分野で連成解析が実施されるようになりました。
ANSYSには、単一場(構造、伝熱、電磁場、流体など)をそれぞれ個別に解き、解析間は荷重を転送することで連成させる『シーケンシャル連成』と、複数の解析場を解くのに必要な自由度を全てもった連成解析専用の要素を用いて連成場を解く『ダイレクト連成』があります。

ダイレクト連成は、使用する要素が1つで解析実行も1度で済む為、非常に使い勝手のよい要素と言えます。しかし構造場における材料非線形性(弾塑性、超弾性、粘弾性など)が扱えないというデメリットがありました。その為、材料非線形性を考慮したい連成解析では、ユーザーは『シーケンシャル連成』を行うしかありませんでした。
Release13.0より、この点が克服され、既存のダイレクト連成要素で材料非線形性が扱えるようになりました。本紹介では、ダイレクト連成要素の紹介から、機能強化の内容、解析例を御紹介致します。

ダイレクト連成要素

ANSYSには多目的に使用可能なダイレクト連成要素として、以下の3つの要素が、Release8.0から新たにリリースされました。

これらの要素においては、『構造』、『伝熱』、『電流(電気伝導)』、『電場』の4つの単一場の解析が可能であり、これらを組み合わせた連成解析が可能です。連成解析の種類としては、

  • 構造−伝熱
  • 電流−伝熱
  • 構造−電流−伝熱
  • 構造−電場
  • 圧電
  • 圧電−伝熱
  • 圧電抵抗

が挙げられます。尚、これらの要素は、Release11.0 まではANSYS Multiphysicsライセンスが必要でしたが、Release12.0よりANSYS Mechanicalライセンスでの使用も可能となりました。

シーケンシャル連成は、解析間の荷重の転送(例えば、伝熱解析で得られた温度分布を構造解析の物体荷重として転送)が必要です。非定常の伝熱−構造解析や、形状が大きく変形したり、解析中に接触状態が変化するような解析では、構造解析から変位情報を形状の更新などで伝熱要素に反映する必要があり、更新のタイミングをユーザーが決定する必要がありました。また、そのような双方向の転送をユーザーがその都度手作業で行うか、APDLコマンドによる対処が必要でした。もう1つの方法として、これらの作業を自動化できる“マルチフィールドソルバー”があります。こちらの場合は、マルチフィールドソルバー専用の設定を行う必要があり、新たなプリ操作を覚える必要があります。
その為、摩擦熱解析や接触/非接触をともなう電気伝熱、スポット溶接など、過渡的に状態が変化する連成解析では、ダイレクト連成が非常に扱いやすいと言えます。

材料非線形性のサポート

Release13.0より、これらのダイレクト連成要素にて構造の材料非線形性が考慮できるようになりました。サポートされた非線形性は、下記の『塑性』、『粘弾性』、『粘塑性/クリープ』です。

  • 塑性
    PLASTIC, BISO, MISO, NLISO, BKIN, MKIN, KINH, CHABOCHE, HILL, SMA, CAST, EDP, GURSON
  • 粘弾性
    PRONY, SHIFT
  • 粘塑性/クリープ
    CRREP, RATE

考慮される内容が構造場ですので、使用条件としましては構造自由度(UX,UY,UZ)を含む解析である必要があります。下記が該当する連成解析の種類になります。

  • 構造−伝熱
  • 構造−電流−伝熱
  • 構造−電場
  • 圧電
  • 圧電−伝熱
  • 圧電抵抗

※ 静解析・時刻歴応答解析でのみ非線形性の考慮が可能です。モーダル解析・周波数応答解析は線形解析が条件の為考慮できません。

これらの解析を行う際に、(超弾性を除く)材料非線形性を考慮したい場合、ANSYS Mechanicalライセンスでダイレクト連成の解析手順で行えるという容易さが大きなメリットになります。
ダイレクト連成における材料特性の定義は、通常の単一場解析の際と同様です。考慮したい複数の解析場に関する材料特性を、同じ材料特性参照番号で指定するのみです。構造非線形性の内容はTBコマンドを使用して定義します。
尚、ダイレクト連成要素のキーオプション設定として、材料非線形性を考慮する場合、下記が推奨されています。

  • KEYOPT(2) = 1
    構造−伝熱−(電流)解析、圧電−伝熱解析では、構造自由度と伝熱自由度の間で弱(荷重ベクトル)連成を使用することを推奨します。
  • KEYOPT(9) = 1
    構造−伝熱−(電流)解析、圧電−伝熱解析で時刻歴応答解析を行う場合、熱弾性減衰を抑制することを推奨します。
  • KEYOPT(6) = 1
    SOLID226要素を使用する場合は、一様低減積分オプションを選択してください。

解析事例(スポット溶接)

スポット溶接とは、電極で被溶接部をサンドイッチ構造で挟み、電極を通電、加圧することで電極直下の被溶接部を溶融し結合させる溶接手法です。このような事例では、解析タイプとしては、電流−伝熱−構造の3つの解析場を考慮する必要があります。更に、構造解析における3つの非線形性(幾何学的非線形、材料非線形、要素非線形)を考慮する必要もあります。
このような解析では、材料非線形性を考慮できるようになったダイレクト連成による解析がお薦めです。

1. 使用要素タイプ

  • PLANE223
  • KEYOPT(1) = 111
    KEYOPT(3) = 1
    KEYOPT(9) = 1
  • TARGE169
  • CONTA172
  • KEYOPT(1) = 3

    2. 使用材料特性(温度依存性含む

    構造、伝熱、電流解析に必要な材料特性を同時に全て定義します。

    • ヤング率
    • ポアソン比
    • 密度
    • 2直線等方硬化など(塑性)
    • 線膨張係数
    • 熱伝導率
    • 比熱
    • エンタルピ
    • 電気抵抗率

    3. 境界条件

    材料特性と同様に、各解析場において考慮したい条件を同時に全て定義します。今回の例では、電極の片端をアースし、もう一方から電流を通電します。同時に圧力を定義し、非溶接部を加圧します。伝熱の条件として、熱伝達境界と冷却水に触れる箇所に温度拘束の条件を定義しています。位置関係は、下図の通りです。

    4. 解析結果

    結果コンター図として、『電圧』、『温度』、『相当弾性ひずみ』、『相当塑性ひずみ』を示します。電流解析、伝熱解析、構造解析の結果を同時に確認することが出来ます。材料非線形材料として定義した塑性材料(2直線等方硬化)によって、塑性ひずみが計算されていることが結果からもわかります。

    最後に

    下表は、各種連成手法における材料非線形性の考慮の有無、ならびに解析手順の操作性をまとめたものです。Release13.0より、ダイレクト連成の赤丸の箇所が機能強化されたことになります。現在は、超弾性に関してはサポートされておりませんが、今後の機能拡張にご期待ください。

    (CAEのあるものづくり2011年15号掲載)

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