岐阜大学 工学部 機械工学科 永井 学志 様材料力学、設計のための封筒裏の計算 ― back-of-the-envelope calculation ― として

目次

はじめに

本稿を気にしつつ同僚教員と雑談をしていると、どうしても本質を突いた概算や手計算の大切さに話が及びがちになります。その折に、物理系では概算のことを“フェルミ推定”や“back-of-the-envelope calculation”などとも言う1)ことを知りました。物理学者のフェルミが、最初の原爆実験時に爆風で紙切れが飛ばされた距離から、その場でちょこちょこっと手計算し、その威力のオーダーを見積もったというエピソードに由来するようです。分野毎にネーミングが違えども、私なりに勝手に解釈すれば、「あの店は、月にいくら儲けているのだろうか?」という経営者の粗い見積もりと同じです。発散する方向の雑談はさておき、本稿ではCAE、特に大学生の頃に出会ったFEMを生業とするに至った大学教員の、“材料力学に対する想い”を書かせてください。高度なシミュレーションでも出来る現在だからこそ、設計におけるback-of-the-envelope calculationのための材料力学は大切です。

さて、サイバネット本社のビルからは東京スカイツリーがよく見えます。この設計に私の先輩が関わっていました。お話として聞く2)には、図1に示すように、まずは“片持ちはり”として検討をはじめたとのことです。すなわち、底部直径60mの鋼管柱を地面に固定し、風や地震力による水平力について考えたようです。当然、詳細なFEM解析も必要に応じて実施したはずですが、アタリをつけるには実学としての材料力学 ― 建設系では“構造力学”と呼ぶことが多い ― が有用だったのでしょう。想定される力学的条件 ― 力の掛かり方や、固定の仕方 ― を考えつつ、対象となる構造物全体をグッとにらんで、作用する力に対してどのように変形することで抵抗するメカニズムとなっているのか、またどのように力が流れているのかを予想したのではないでしょうか。そのうえで、手計算ができる力学モデル ― なにも1つとは限らない ― にまで落とし込み、変形量や崩壊荷重のオーダーを見積もったのだろうと予想しています。

この東京スカイツリーの例に限らず、航空機の胴体や翼、船の船体などの設計でも、まずは“はり”としてのモデル化が大切であると、世の材料力学の教科書は謳っています。ところが、学生時代の私は手計算が七面倒だったということと、またコンピュータ計算に興味があったことから、古色蒼然とした材料力学が嫌いでした。建築学科2年のある日、はりの1次不静定問題を解く宿題が大量に課されたことがありました。そこで、入手したての構造力学の本に付属していたソフトウェアにチャチャッと計算させ、曲げモーメント図(Bending Moment Diagram, B.M.D.)とせん断力図(Shear Force Diagram, S.F.D.)を描いて宿題を出しました。しかも、面倒な計算はコンピュータに任せればよいという旨の感想を書き添えたことを記憶しています。ところが、そのソフトウェアへの入力データもしくは入力法を間違えていたのです。あとは言わずもがなです。返却された宿題には、担当教員から「間違っていては意味がない!」と、大きく朱書きされていました。


図1 サイバネット本社より望む東京スカイツリーと、その材料力学的モデル化

数年前、私が所属学科を工学基礎系から機械工学に替えたことに伴い、新たに機械の学生さんに対する授業をいくつか持つようになりました。そのなかで、専門科目の伝統的な設計製図を担当して驚いたことがあります。それは、機械工学を学んでいる学生さんのある割合は幼少時にモノづくりに親しんだ経験が少ないということでした。私は機械系学科卒でないので、本当にびっくりしました。モノづくりの原体験がないと、設計の計算書は意味の薄いルーチンワークに、CAD製図は単なるお絵描きになりがちです ― 教員側もこの内容を見直すべきとの認識があります ― 。低学年で学習済みの材料力学についても、公式は記憶に残ってはいるものの、モノづくりのための設計にどのように活かすべきなのか、ということまで考えが至るはずもありません。ただ、よくよく考えてみると、それを機械系エンジニアの入口まで導くのが我々教員の仕事です。前学科に引き続き、機械工学科でも今年から有限要素法の講義を担当させてもらっていますが、従来ながらのFEM理論の教授や、FEMソフトウェアの使用法どころの話ではなくなりました。なお、次稿では有限要素法の講義枠の1/3を潰して、学生さんに発泡スチロールブリッジを設計・製作・実験してもらったお話をさせて頂くつもりです。

このような経緯と相前後して、サイバネットのCAEユニバーシティにて、“FEM実験室 ― 静解析編 ― ”やパスタブリッジ3)講義の講師をさせてもらうようになりました。企業はシビアですので、日常の設計業務に直結しつつも、各人のエンジニア人生に渡って活かせる知識・経験をも要求してきます。エンジニアの皆さまは、学生さんと違って目的意識がはっきりしています。そこで、知識の体得と少しばかりの原体験さえあれば、これに応えることができるのではと考え、材料力学に関する実験を中心に据えてアクティブラーニング形式で実施しています。残りの原稿では、CAEユニバーシティからの講義作成の依頼にて、研究室の学生さんと共にワイワイと作り上げたパスタブリッジ講義から話題を出したいと思います。

パスタブリッジ実験3)とCAE&材料力学

パスタブリッジとは図2に示すように、食材のパスタをホットボンドで相繋いで橋梁 ― エイヤッと単純支持はりでモデル化しうる ― を班活動で作って、高強度を競う講義ネタです。私の知る限り、この10 年ほどの間に材料力学・構造力学のある学科にてよく取り入れられるようになっています。パスタブリッジのほかにも…

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