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解析事例

浜松ホトニクス株式会社

光半導体パッケージの反り解析でAnsysを活用

右端が早津様、中央が岩科様

「絶対真理への挑戦 光を通して未知未踏を探る-」

光半導体、光電子増倍管、分析用光源などをはじめとした、光関係の電子部品や電子機器の製造・販売を行う浜松ホトニクス様。1953年に「浜松テレビ株式会社」として創業して以来、つねに未知未踏の領域を追求されてきました。その極めて高い光技術は世界的な評価を受けています。2002年に、東京大学の小柴昌俊教授がニュートリノの観測でノーベル物理学賞を受賞しましたが、その際に開発されたカミオカンデでは、浜松ホトニクス製の光電子増倍管が大量に採用されていたことは広く知られています。
今回は、Ansysをお使いの固体事業部の皆様にお話をお伺いしました。

今回お話いただいた方々
固体事業部 固体三家製造部 生産技術グループ
グループ長 早津 健造 様
岩科 進也 様

(以下、お客様の名前の敬称は省略させていただきます。)

航空宇宙から自動車、電気電子、生命科学まで、幅広い分野で活躍

まず、御社の取り扱い製品についてお聞かせください。

早津

当社は高度な光技術をベースに、多種多様な製品を開発しています。
部署としては3つの事業部があり、ひとつは電子管事業部。ここで開発しているのは光電子増倍管と呼ばれる真空管で、高速・高感度の光センサーとして、医療・学術分野から産業分野まで幅広い分野で活用されています。2002年、小柴昌俊教授がニュートリノの観測でノーベル賞を受賞されましたが、観測に用いられたカミオカンデには、当社の光電子増倍管が大量に搭載されています。
次に、我々の所属する固体事業部です。ここでは光半導体を扱っており、製品は医療機器や車載製品をはじめ、計測器、デジタル家電、さらに学術研究用など、様々な用途で活用されています。
また、世界ではじめて小惑星「イトカワ」に着陸し、地表の微粒子を持ち帰った「はやぶさ」には、当社のイメージセンサが搭載されていました。また国立天文台が運用するハワイ/マウケナア山頂の「すばる望遠鏡」の主焦点カメラには、当社の世界最高感度を実現したCCDイメージセンサが搭載されています。
もう1つはシステム事業部です。光半導体や電子管などの光センサーをキーコンポーネントに、光検出技術、イメージング技術、画像処理、計測技術を統合したシステムを開発・製造しています。病理画像のネットワークを用いた観察・解析、半導体の故障解析から故障管理へのスケールアップなど、生命科学や半導体を中心に幅広い分野の製品開発に取り組んでいます。これらとは別に、中央研究所をはじめとした研究施設があります。

半導体の後工程でAnsysを採用。導入の決め手は抜群の知名度

御社の製品は、実に幅広い分野で採用されているのですね。光電子増倍管の分野でも圧倒的な世界シェアをお持ちと聞いています。固体事業部での、ご担当業務はどのようなものですか?

早津

我々が所属する固体三家製造部生産技術グループでは、光半導体の後工程にかかわる設計・開発業務を行っています。

岩科

その中で、私はAnsysを使った解析業務全般のほか、関連する試作実験なども行っています。以前は実験を多く行っていましたが、最近では実験よりも解析の比率が増えています。

Ansysの導入経緯をお聞かせください。

早津

Ansysを導入したのは10年ほど前です。当時、シミュレーションは行わず、信頼性試験などの実験で評価をしていました。しかし評価結果から、改善策を見つけるまでに時間を要していました。そこで設計の早い段階で、応力や反りなどを予測したいと考えるようになりました。
Ansysを選んだのは、当時から熱応力の分野で最も知名度が高かったからです。多くの論文でAnsysの解析結果が引用されていましたし、入社してくる学生もAnsysの利用経験がありましたので、これなら安心して導入できると考えました。

岩科

社内でも、シミュレーションツールは様々な部門で使われているのですが、機械系では、本格的なCAEはAnsysがほぼ初めてだったと思います。

当時から解析を取り巻く環境は変わりましたか?

岩科

変わったと思います。私が入社したころには既にAnsysは導入済みでしたが、当時は社内的にはAnsysの知名度はあまりありませんでした。
しかし最近、当事業部では、製品開発にもっとシミュレーションを導入して、コスト削減や品質向上を図ろうという動きが活発になっています。社内で定期開催されている技術発表会でAnsysの解析事例を紹介していくうちに、様々な部門から解析依頼が来るようになりました。最初のうちは、過去に起きた不具合の原因解明を目的としたものが多かったですが、次第に、試作する前に相談を受ける事も増えてきました。

他部門からの解析依頼も増加中。

御社の中で、機械系のエンジニアの方はどのくらいいらっしゃるのですか?

早津

全社的には、光学系や電気電子系、化学、物理系の出身者が大半です。しかし当部門は後工程を扱うため、反りや疲労などが問題になりますので、岩科のような機械系の人間が何名か所属しています。

解析内容の打ち合わせや解析結果を評価する際、専門分野が異なる方とのコミュニケーションはどうしていますか?

岩科

専門用語の問題もあるので、必ず一度会って説明しています。わかってもらえるまで説明するようにしていますが、専門分野が大きく異なるので苦労することもあります。
特に応力は目に見えませんので、応力の概念がない方に応力の話をするのは難しいです。たとえば高温の状態で発生する応力を見ようとしても、実際は高温状態で断面を切る事はできません。そのため、応力で解析結果を説明するのは避けて、代わりに「反り」で説明するなどの工夫も必要です。反りなら実際に計測することができますから。

また、たとえば電気回路設計ツール等の場合、短時間でかなり高精度な結果が出ます。一方で、計算時間が何十時間もかかり、実験結果とのあわせこみが必要な機械系のシミュレーションは、電気系技術者にとって馴染み辛い部分もあると思います。しかし当社には、新しい技術を貪欲に採り入れようとする社風が根付いていることもあり、丁寧にコミュニケーションを重ねるうちに、依頼も増えていきました。

パッケージの反り解析では、解析結果と実験結果が合致。

何か解析事例をご紹介いただけますか。

岩科

図はAnsysを用いたパッケージの反り解析です。後工程では、組み立て後の基板の反りが問題になっています。そこでAnsysを使って熱応力解析を行い、現状より反りの少ないパッケージの形状を検討しました。

実験結果と解析結果がとても近いですね。何か工夫されたことはありますか?

岩科

材料の初期反りを除外して、実験結果とシミュレーション結果を比較しました。
材料レベルの反りはメーカーに起因しますので、後工程の我々には予測することも制御することもできません。そのため、初期の反りを考慮するよりも、反りが悪化しない組立工程を設計することが重要だと考えています。
実験結果として出すデータも、基板の初期反りは除外して考えます。初期の反りと、組立工程終了後の反りを計測し、その差とシミュレーション結果を比較しています。

非線形性や配線パターンは考慮しましたか?物性データはどのように入手されたのでしょうか?

岩科

どちらも特に考慮していません。材料データは、材料メーカーに問い合わせて取り寄せています。以前は実験して取得することも検討しましたが、当社で扱う材料は特殊なものが多く、1つ1つ実験でデータを取得していては費用と時間がかかりすぎてしまいます。絶対的な値が必要なら、精密な材料データが必要ですが、我々が求めているのは設計の前段階で大まかな方向性を掴むことですので、効率も重要だと考えています。

もう1つ、要素のバース・デス(生成・削除)機能を利用したことが、解析精度に大きな影響を与えました。当初はこの機能を知らず、実験結果となかなか合わず苦労したのですが、組み立て工程で追加されるような材料をバース・デスで順次追加していったところ、実験結果と良く合致するようになりました。これは大きなブレイクスルーでした。

要素のバース・デス(生成・削除)機能とは:
モデルの任意箇所において、要素剛性をゼロまたは非ゼロに切り替える機能です。材料の追加や除去のシミュレーションや、部品の移動に伴う影響を考慮する際に役立ちます。

Ansys Workbenchは設定内容を一望できるため、設定作業の煩雑さが大幅に解消

現在、操作環境はAnsys WorkbenchとMechanical APDLのどちらをお使いですか?

岩科

両方です。入社した当時はMechanical APDLを利用しており、今でもバース・デス機能が必要な解析はMechanical APDLを使いますが、それ以外はAnsys Workbenchを利用しています。Ansys Workbenchを使い始めたのは半年ほど前にAnsys CFXを導入したことがきっかけです。Mechanical APDLよりも使いやすいので、Ansys CFXがなくても必然的にAnsys Workbenchに切り替えていたと思います。

Ansys Workbenchに切り替えて、工数と言うよりは煩雑さが大幅に解消されました。Mechanical APDLの場合、設定内容に間違いがないかどうか確認するのが難しいのですが、Ansys Workbenchでは設定内容が一覧で表示されるため、非常にわかりやすいです。

疲労解析に大きなニーズ。課題は適切な材料データの入手

今後、取り組まれたい解析テーマはありますか?

早津

疲労解析です。疲労試験は、実験の中でも最も時間がかかる分野ですし、Ansysを導入した当初から是非やりたいと考えていました。しかし材料データの問題など、なかなかハードルが高いようです。

岩科

疲労解析のニーズはかなり大きいのですが、適切な材料データの入手が難しいです。例えば樹脂系基板の場合、高温では粘性の影響が出てきます。よって各温度における物理特性を計測する必要があります。当然材料は単一ではありませんから、1つの解析に必要な材料データをすべて測定するだけで、膨大なコストがかかってしまいます。
疲労解析の課題は材料だけではなく、メッシング等のノウハウも必要になりそうですが、もし疲労解析用の緻密な材料データが入手できるのなら、是非チャレンジしたいと思います。

近年、当社では熱の問題が大きくなってきており、信号処理回路を組み込んだパッケージの放熱特性のシミュレーションなどの熱流体解析にも取り組んでいます。そのほか、当社では最近MEMSにも力を入れており、MEMS部品が空気中で受ける抵抗なども評価していきたいです。流体と構造ではかなり分野が違いますので、どのように習得していくかが課題だと思っています。

早津

工場の環境も品質に影響を与えます。例えば樹脂封止された電子部品は吸湿により封止樹脂の機械的特性が変化してきますので、吸湿効果も考慮した解析も検討していきたいと思います。さらにアンダーフィル樹脂の流動解析ニーズなどもありますので、解析担当者の人数は増やしていく必要があります。

製品について何かご要望はありますか?

岩科

Ansys Workbenchは非常に使いやすいのですが、ファイルサイズが大きすぎて、重くなることがあるので、改善されると良いですね。

ほとんど独学で覚えたAnsysの操作は、サイバネットのサポート体制が貢献。今後はいっそうの情報発信に期待。

Ansys 14.5で、結果ファイルのフォーマットが変更され、最大で50%、ファイルサイズが削減可能になりました。是非お試しいただければと思います。当社に対してご要望はありますか?

岩科

サイバネットのサポート体制は手厚いので助かっています。自分はほとんど独学でAnsysを覚えましたが、電話やFAQなどのサポートが役立ちました。

ただ、機能ベースの製品紹介ではなくて、目的に特化したアプローチ方法や解析事例などを、もっと情報発信してもらえるといいと思います。先ほどバース・デス機能が役に立った話をしましたが、この機能は、一般のマニュアルには記載されているもののわかりにくくて、サポートに問い合わせてようやく理解できました。
また色々なセミナーを開催していますが、距離の問題でなかなか参加しづらいので、もう少し手軽に参加できるようになると助かります。

ありがとうございます。今後は解析事例のダウンロード配信やWeb上でのセミナー開催、動画配信など、Webを活用した情報配信を強化していきたいと考えております。どうぞご期待ください。

浜松ホトニクス株式会社 早津様、岩科様には、お忙しいところインタビューにご協力いただき、誠にありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます。
【メカニカルCAE事業部 マーケティング部】

「CAEのあるものづくりVol.18 2013」に掲載

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光半導体パッケージの反り解析

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