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解析事例

住友ベークライト株式会社

住友ベークライト株式会社様:革新的な材料開発に、AnsysとMultiscale.Simの解析技術が貢献

左から中井戸様、畑尾様

半導体、電子部品、自動車、建材、包装、医療などの分野で利用される、各種プラスチック製品の総合メーカー、住友ベークライト様。
プラスチック製品は、現代社会に欠かせない存在として定着しています。その歴史は旧く、1911年に、住友ベークライト様の出発点である三共合資会社(現 第一三共株式会社)がフェノール樹脂(ベークライト)の試作を開始したのが草分けです。
それ以後、住友ベークライト様はプラスチックのパイオニアとして、「単なるものづくりではなく“機能”を創ること」をモットーに、付加価値の高い製品を次々と市場に提供されてきました。
今回は、情報通信部門の研究開発を担う、情報・通信材料総合研究センターにお話を伺いしました。

今回お話いただいた方々
情報・通信材料総合研究センター
主席研究員 畑尾 卓也 様
研究員 中井戸 宙 様

(以下、お客様の名前の敬称は省略させていただきます。)

お客様からのニーズと、自社の基礎研究で開発した技術を結びつけて、新しい価値を創造

ご担当業務についてお聞かせください。

畑尾

当社は半導体、電子部品、自動車、建材、包装、医療などの分野で利用される各種プラスチック製品の総合メーカーです。

当社の事業は、3つに大きく分類することができます。1つは情報通信部材といい、「半導体封止用エポキシ樹脂成形材料」をはじめとした、半導体部品関連に使われるプラスチック材の開発を行っています。
2つ目は高機能プラスチックと呼ばれる分野で、自動車の摩擦材などに使用されるフェノール樹脂をはじめ、耐熱性、寸法安定性、機械特性、耐磨耗性などに優れた多種多様なプラスチックを開発しています。
最後はクオリティ・オブ・ライフという分野で、食品包装用フィルムや医薬品パッケージ、医療機器向けのプラスチックです。

一方研究開発部門は、こうした事業を支えるため、「プラスチック材料にさまざまな反応・加工を施して、多種多様な機能を創造・付加し、新たな価値を生み出すこと」を最大のテーマにしています。
体制は、大きく分けてお客様の価値を創造する種を育成する基礎研究部門、商品を具現化する応用研究部門、そして我々が所属するお客様の価値を創造する情報・通信材料総合研究センターに分けられます。
基礎研究部門では、大学や公的機関とも協業しながら有望技術を蓄積し、応用研究部門では、製品分野ごとの研究所を設置して専門性を高め、めまぐるしい技術の高度化に対応しています。
そのなかで、情報・通信材料総合研究センターは、基礎研究部門と応用研究部門の中間に位置しており、応用研究部門などから吸い上げたお客様からのニーズと、基礎研究部門で開発した有望技術を結びつけてお客様の価値を創造する役割を担っております。
研究センターでは、ほとんどの人は材料開発を行っていますが、我々は材料開発を支える信頼性評価解析技術の開発を担当しています。CAEによるシミュレーションは、お客様の要求仕様をもとに、その要求を満たすために最適な材料物性を提案したり、今後、どの材料物性を開発の中心におくべきかを提示するなどして、材料開発を支援するために使っています。

当時は「絶対に無理」と言われても、数年後に実現することも。
「今できないこと」を提示してこそ、シミュレーションには意義がある

最適な物性値がわかれば、その通り作れるものですか?

畑尾

そうとは限りません。時には、最適な材料物性がわかっても、同じものを作るのは不可能なこともあります。
しかし、当時は「絶対に無理」と言われていたものが、数年後に実現して、お客様に評価されるといったケースもあります。その意味では、「今できること」を算出するより、「今できないこと」を見せて、今後の方向性を提示することにこそ、シミュレーションの存在意義があるように思います。

近年のプラスチック業界の課題についてお聞かせください。

畑尾

携帯電話に使われるような材料や基板は、製品開発のサイクルが非常に早くなりました。材料設計でもかなりスピードが求められるようになり、開発期間の短縮のためにCAEが活用されています。
最近では、CAEによるシミュレーションはお客様の必須条件になっており、この材料を使うとどれだけ品質が向上するか、CAEで計算した結果を示すことが求められています。

ガラスクロスの影響までモデル化できる点を高く評価し、Multiscale.Simを導入。

Multiscale.Simの導入経緯をお聞かせください。

畑尾

ちょうどMultiscale.Simが発売されたばかりの頃ですね。我々は基板材料を扱っておりますが、Multiscale.Simは、基板の中のガラスクロスまでモデル化できると聞き、当社の業務と直結するので導入しました。Ansysはその時、Multiscale.Simと併せて購入しています。
当社では別のCAEツールも使っているのですが、ガラスクロスをモデル化するのは大変な作業でした。ところがMultiscale.Simを使えば簡単にモデルが作成できますし、このように顧客のニーズをいち早く汲み取って、きちんと製品化しているサイバネットにも好感が持てました。
当時は弾性体しか扱えませんでしたが、最近のバージョンでは、粘弾性が考慮できるようになりましたね。樹脂製品の場合、粘弾性の考慮は必要不可欠なので助かっています。

ありがとうございます。では、解析事例をご紹介願えますか。Multiscale.Simとは別に、当社のカスタマイズサービスをご利用いただいたそうですね。

畑尾

当社では、別のCAEツールを利用して様々な解析を行ってきました。そのCAEツールに、はんだの物性や樹脂の物性といった様々な情報を蓄積してきたのですが、1つ問題がありました。
一般にはんだの疲労解析では、移動硬化則(※)を使うのが良いとされています。また、効率よく解析するには陰解法が適しているのですが、当社が使っているCAEツールでは、陰解法で解析することができませんでした。ところがAnsysでは解析できることがわかったため、今までそのツールで蓄積した材料モデル使ってAnsysで解析しようという話になり、サイバネットにカスタマイズを依頼しました。

※移動硬化則とは:
引張-圧縮のサイクリック荷重下における降伏挙動を記述するための数学モデルの一つ。引張側で材料が降伏すると、圧縮側では降伏応力が初期状態よりも低下する現象(バウジンガー効果)を考慮することができます。

図は解析した電子部品の写真です。
上がチップと呼ばれる伸び縮みの少ない材料で、その下には基板があり、ガラスクロスが用いられています。チップや回路、基板の接続を維持するために樹脂が使われており、ここでは樹脂の特性や、基板の物性が変化したときの影響を解析しています。

解析モデル&実物写真

Ansysでは、ユーザーサブルーチンを使って、新しい材料モデルを組み込むことができます。今回のカスタマイズでは、ガラス転移点、すなわち特定の温度になった段階で、材料物性が不連続に切り替わるようなモデルを組み込みました。
その後いかがでしょうか?不連続に材料物性が切り替わる場合、収束性などに影響はありませんか?

畑尾

問題なく解析できていますし、解析結果にも満足しています。図の結果は、右がカスタマイズで組み込んだ「粘弾性」の材料モデル使った場合、左はそれを使わず、「弾性体」として解析した場合です。ひずみの分布が大きく異なっており、粘弾性を考慮することで、解析に大きな違いがでていることがわかります。

配線パターンや銅の残存率は考慮されていますか?

畑尾

配線パターンは解析に影響を及ぼすので考慮する必要がありますが、そのままモデル化することは解析時間を考えると無理があります。実際の配線パターンを見て、どのように影響しそうかを考え、色々工夫しながら考慮するようにしています。

大切なのは、解析する前に「何が見たいか」「何のために見るのか」を明確にし、自分なりに予想を立ててみること。

御社では、CAEの教育はどのようにされていますか?

畑尾

操作教育は入門セミナー等で習得しました。見たい現象をモデル化したり、効率よく解析するためのノウハウは、サポートに問い合わせたり、実際に使っている人に習ったり、グループ内でディスカッションしたりして進めています。

CAEを使う上で、特に気をつけていることは何ですか?

畑尾

何を見るために解析するのか、目的を明確にしてから実施するようにしています。どのような結果が出てほしいのか、どう出たら自分の考えが正しいと証明できるか。これがないと、途中で何をしているのかわからなくなったり、収束性の改善にばかり気をとられて、本来の目的を見失ってしまいがちです。
また、樹脂のことがわからないと、材料開発に役立つ結果は出せません。できるだけ、実際に材料を扱っている人と一緒に解析するように心がけています。

中井戸

一番気をつけているのは、出てきた結果を鵜呑みにしないことです。必ず、自分でも結果を予測し、どこを見たいのか意識するようにしています。

畑尾

CAEを使えば結果は出ますが、妥当性をきちんと評価するには実験が必要です。そこで、実験もできるだけ自分たちでやるようにしています。

AnsysやMultiscale.Simについて、ご意見をお聞かせください。

中井戸

Multiscale.Simでガラスクロスの構造までモデル化できるのはいいのですが、実際はさらに細かい構造の材料も扱っています。例えば不連続の繊維が含まれたモデルも、もっと簡単に作れるようになるといいと思います。

そうですね。短繊維を簡単にモデル化したい、とお考えのお客様は多くいらっしゃるようです。
短繊維などのフィラーを、含有率や配向率を元に一括で分散させるようなマクロは現在開発中ですのでご期待ください。また近い将来には、射出成型品内部の不連続繊維構造の応力分布といった、非常に複雑なミクロ構造までを、樹脂流動解析ツールとの連携も視野に入れてモデル化できるようにしたいと考えています。

畑尾

当社の樹脂は、様々な環境下で利用されます。同じ材料でも、お客様によって利用環境が異なるため、まったく別の材料特性を示すことがあります。そのため、プロセスによって時々刻々と変化する物性を、より簡単に考慮できるようになるといいと思います。

CAEに期待するのは、実験では見えないものを可視化すること。
ミクロレベル、分子レベルまで解明できれば、高価な実験装置をしのぐ価値が生まれる

今後のCAEの進化について、どのようなことを期待されますか?

中井戸

大規模計算を活用してみたいです。CAEは、従来はハードウェアのスペックの問題で制約がありましたが、今では大抵のものは解けるようになってきたと思います。今までは、あまり重要でない部分はできるだけ簡略化して解析してきましたが、省略しないことによって、新しい発見があるのかもしれません。

畑尾

時間をかけて解析したほうがいい場合もあるのでしょうが、材料開発の担当者は、すぐにでも回答が必要です。相談を受けたら、翌日には何らかの回答を出すようにするのが、CAEで開発支援をする人間の役目だと思います。
その一方で、細かいところを見たいという思いも当然あります。CAEに期待するのは、実験では見えないものを可視化することです。例えば、先ほどお見せしたはんだの断面の写真。専用の装置を使えば、かなり細かい部分まで綺麗に見ることができるのですが、どうしてもある程度で限界に達します。
CAEでミクロや分子サイズまで解析して、その領域がどのような構造になっており、どのような効果をもたらしているか解明できれば、高価な実験装置よりも価値のあるツールになると思います。

Ansysの並列計算の機能もかなり充実してきていますので、よろしければ是非、ご検討ください。半導体パッケージは、ガラスクロス以外にも、多孔質体など、不均質な部分が至るところにありますね。実験では解明しきれない部分だと思いますので、Multiscale.Simで解析できるようになれば、メリットは大きいと思います。
当社への要望は何かございますか?

畑尾

ソフトウェアの提供だけでなく、今、どのような製品が注目されていて、今後どのような製品が伸びそうかとか、それにより起こりうる問題など、技術トレンドに関する情報も発信してもらえるといいと思います。サイバネットさんなら大勢のお客様と接しているので、情報を集めやすいのではないでしょうか。

もっと社外の情報が知りたい、お客様の間で情報交換がしたい、という方は多数いらっしゃるようです。当社も是非、お手伝いさせていただきたいと考えています。
そこで、最近では地域別のユーザー会など、お客様同士の交流につながるようなイベントに力を入れるようになりました。まだまだ手探りのところはありますが、お客様のご意見も伺いながら、有効に活用いただける場を作って行きたいと思います。

住友ベークライト株式会社 畑尾様、中井戸様には、お忙しいところインタビューにご協力いただき、誠にありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます。
【メカニカルCAE事業部 マーケティング部】

「CAEのあるものづくりVol.19 2013」に掲載

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