[摂南大学]土木工学へのANSYSの活用

今回のユーザインタビューにご協力頂きましたお客様は、摂南大学・工学部・土木工学科の頭井洋教授と同大学院生の中野将志様、ならびに濱野涼子様です(写真)。

摂南大学は学校法人大阪工大摂南大学に属しており、同学園は摂南大学・同大学院ほか、大阪工業大学・同大学院、大阪工業大学短期大学部、大阪工業大学高等学校を設置する一大総合学園です。とりわけ1975年(昭和50年)4月に開設した摂南大学は、1学園2大学構想のもとに発足したもので、法学部、国際言語文化学部、経営情報学部、工学部、薬学部と大学院4研究科を擁するバランスのとれた総合大学として成長を遂げています。摂南大学・工学部は土木工学科、建築学科、電気工学科、機械工学科、経営工学科の5学科から成り、今回ご紹介する頭井教授は土木工学科において主に構造力学分野にてANSYSをご利用頂いております。又、土木工学科様からは1996年のANSYSコンファレンス以降、毎年、事例発表を頂いているユーザ会の常連様でもあります。


頭井洋 教授

中野将志 様

(以後、お客様の敬称は略させていただきます。)

先ず、先生の主な研究内容について詳しくお聞かせ願えませんでしょうか?

頭井:この大学に来る以前は、企業にて建設省との共同研究テーマとして<免震橋の研究>に3〜4年ほど携わっておりました。そこでは、地震時の地震力を直接構造物に伝搬させずにいかに逃がしてやるかといったことを、橋の上部構造を支える支承部分に特殊なゴムと鉄板を積層させた免震支承構造を考え、コンピュータシミュレーションによる動的応答解析などを使ってその効果を検証していました。この大学に来てからも同研究テーマに取り組んでおりましたが、皆様の記憶にも新しい<阪神大震災>以後、特に直下型大地震に対する各種土木構造物の耐震設計に関する技術開発・研究に取り組んでおります。

<阪神大震災>後はそのような直下型地震に対する耐震設計技術の研究が多く進められているのですか。

頭井:そうです。この震災における地震を<兵庫南部地震>と呼んでいますが、この<兵庫南部地震>は我が国で近代都市の直下で初めて生じた直下型の地震で、その地震力は我々専門家から見ても想像をはるかに越えるような大きなもので、土木構造物の被害状況も今までになかった大きな規模のものでした。あのような規模の地震はその特定地域おいては、1000年ないし2000年に1回程度の確率で起こるもので土木構造物の寿命を遥かに越えています。ただ、地域を特定しなければ大震災と呼ばれる程度の地震は50〜100年に1回は起きているために我が国において地震に対する耐震設計技術の研究は欠かすことの出来ないテーマなのです。設計の現場では純粋に地震力に耐えうる構造を設計していたのでは過大設計になりすぎてコスト面で問題になります。そこである程度の破損を許容した上で大ダメージを受けないフェイルセーフ的な構造物設計が求められているわけです。

そのような研究は<阪神大震災>前にはあまり活発では無かったのでしょうか。

頭井:いえそんなことはありません。<阪神大震災>はその被害があまりにも大きかったために、それ以降に土木構造物の関係者にとって大きな研究テーマになったことは事実です。しかし研究自身は古くから行われていました。日本での耐震設計技術は世界でもトップレベルにあり、過去の震災規模に対して十分な設計を実施しているという関係者の自負がありました。<兵庫南部地震>については予想をはるかに越える地震強度であったわけです。そのために関連する研究論文の数も震災前と震災後では比較にならないほどの数に膨れ上がっていますし、実験的研究の数も増えています。土木学会においては年に1回、地震に対する耐震設計技術についてだけのシンポジウムを開催するようになったぐらいです。実際の設計現場では土木構造物に対する耐震設計指針として平成8年度12月に設計仕様書が改訂されました。それまでは震度法と呼ばれる耐震設計法が主として使われていたのですが、様々な形態をとる土木構造物に対して万全の設計法ではなかったということが明らかになったため、従来の線形弾性理論範囲内での設計から弾塑性を含んだ非線形範囲に拡張された設計まで考えられるようになったのです。

非線形解析ということになるとコンピュータシミュレーションが必須になると思われるのですが、非線形解析は計算時間もかかりますし、結果の信憑性についての評価など専門家でないとなかなか難しいと思うのですが。

頭井:土木構造物も様々な形態に合わせて設計方法が用意されていますので、全てに対して非線形解析が必要であるわけではありません。様々な土木構造物の中でも鋼製橋脚などは<阪神大震災>時に座屈現象を呈して大きな被害をもたらしました。ですからそのような構造物の設計には非線形解析の必要性が認識され、平成8年12月時点で最も妥当と判断された方法での設計法が指定されたのです。ただ、ご指摘のとおり非線形解析にはそれを実施する設計者のモデル化の仕方や結果の評価の仕方によって評価結果が異なる恐れがあるのは確かで、そのような問題については引き続き検討していかねばならない状況です。土木学会では一般の土木構造物設計者に対してこのような解析を行うプログラムを提供することまで考えており、そのための委員会も発足されています。

そのような非線形解析機能を備えた汎用アプリケーションプログラムは、世の中にいくつか存在すると思うのですが、その中でANSYSをご導入頂いたというのはどのような理由からですか。

頭井:大学であるということから学生に使ってもらう上での使いやすさを一番に考えました。ANSYSはプリ・ポスト一体型で解析の流れを簡単に作成出来るというところが気に入りました。非線形解析機能についてはANSYSもかなりのことが出来るようになりましたが、ANSYS以上に非線形解析機能に優れたアプリケーションプログラムもありますので。

使い勝手と解析機能の総合評価を頂いてANSYSということになったわけですね。

頭井:そういうことです。プリ・ポスト機能が充実しているというのは、大学という環境では非常に重要なポイントでした。

では、教育の現場においてはどのようなシステムでANSYSを利用されているのでしょうか。

頭井:7〜8年前に文部省の補助金によりUNIXワークステーション十数台にX端末二十数台というかなり大きなシステムを導入しましたが、その時にCAEアプリケーションとしてANSYSも2ユーザ導入したのが最初です。これらは工学部全体で利用しています。その後、ANSYSの利用者が多くなったこともあり、何人かの先生の研究室レベルで追加導入しています。

本当に有り難うございます。では、定型的な講義の中でANSYSが使われたりするのですか。

頭井:土木工学科では土木解析学という科目の中で有限要素法入門レベルについて触れており、骨組み構造程度はその理論まで教えています。しかし、ANSYSを使った演習というのは卒業研究が主です。そこでは卒業研究ゼミ生を対象に、先ずANSYS/EDを使った集中的なANSYS利用の教育を大学院生の協力のもと実施し、実際の卒業研究テーマではANSYS/Universityを使っているという状況です。

ANSYSを実際に使われてみて使い勝手はいかがですか。

中野:もうANSYSを使い始めて3年になるのですが、やはり使いやすいです。

ANSYSを使い初めてからご自分の思うような解析が実施出来るまでにどの程度の時間がかかりましたか。

中野:簡単なモデルですと2〜3日で実施出来るようになりました。最初はANSYS/EDで簡単な使い方をマスターしたのちに、現在はANSYS/Universityを使用しています。

工学部では土木工学科以外でもANSYSは使われているのでしょうか。

頭井:機械工学科の先生もよくANSYSを利用しています。大学院生の修士研究などではANSYSを用いています。

日本国内でのANSYSユーザを調べてみると機械・電気業界が圧倒的に多く、土木業界は少ないように思うのですが土木業界では有限要素法があまり利用されていないのでしょうか。

頭井:そんなことはありません。土木業界でも有限要素法はフルに活用されています。ただ、土木業界で使われている有限要素法は、地盤を解析対象物としたトンネル掘削問題や支持杭と地盤の連成問題といったような汎用有限要素法ではカバーされていない機能を取り扱うことが多いために、土木業界向け専用有限要素法プログラムが普及しているのが事実であると思います。

ANSYSにはユーザマクロ機能やGUIカスタマイズ機能があり、汎用解析ツールから専用解析ツールを作り出すことも出来るわけですが、土木業界の設計者にANSYSを普及させるためにはどのような負荷技術が必要であるとお考えですか。

頭井:我々のような研究者にとっては、汎用有限要素解析プログラムの基本機能を使って対象となる問題を合理的にモデル化し、実際の現象をいかに忠実に再現出来るかということを考えます。よってそのためのモデル化方法や評価方法などが研究テーマになりえるわけです。しかしながら実務として土木構造物の設計を担当している人にとっては、与えられた期間内に与えられた設計を実施しなければならないわけですので、現状の汎用有限要素法プログラムの機能ではとても使いやすいものとは言えません。土木業界では地理情報や地盤情報データベースが充実してかなり利用されるようになってきており、それらとリンクした形で、特定解析目的に特化したカスタマイズによって設計者は必要パラメータだけを入力するだけで有限要素モデルの自動生成ができるといった環境を提供しなければ普及は難しいと思います。

先生のような研究者の方が研究成果に基づいた標準となる設計指針を作成し、我々のような立場の人間がそれを成し遂げるカスタマイズをANSYSに施す。そして、一般の設計者に広く使って頂くといったことが可能であると考えているのですが。

頭井:確かにそこでカスタマイズされたものの完成度が高ければその技術はANSYSと切り離した商品価値が生まれることになるとともに、その技術とともにANSYSが市場に普及することが考えられますね。

最後に、ANSYSへの要望や将来の展望などがあればお聞かせ頂けますか?

頭井:非線形解析機能の充実や新しい梁要素の導入などANSYSも随分と使える機能が充実してきたと思いますが、一つ一つの機能が完全にクローズアップされていない感じがしますね。この間も新しい梁要素で塑性モデルを解いてみたのですが、解析は出来るものの塑性ひずみの結果評価がコンタープロットできないということがありました。せっかくよい機能が入ったのですからポスト機能も完全に対応して欲しいですね。又、塑性硬化則はバイリニア等方硬化則しか使えません。我々研究者の立場から言うと塑性硬化則についてはまだまだ研究レベルにありますのでユーザサブルーチン機能などはもっと使いやすい環境で提供して欲しいですね。

日本ではおそらく来年早々にリリースされる予定のANSYS Revision5.6では新しい梁要素の機能が強化され、非線形硬化則の適用範囲も広がりますのでご期待下さい。又、汎用機能を専用化するためのANSYSカスタマイズについては、我々サイバネットシステムでも進めていくつもりですので具体的な案件があれば協力させて頂ければと思います。

頭井:今年は橋梁の耐震設計において<支承ヒューズ論>という技術について研究を進めています。これは地震時において橋梁上部構造と下部構造に伝わらないようにするものです。このような構造によって地震時に下部構造の損傷を最小限に抑えることが出来るのです。このような新しい技術の開発に対してANSYSに期待する部分はこれからも大きいのでサポートよろしくお願いします。

こちらこそよろしくお願いします。本日はどうも有り難うございました。


図.アーチ橋に関するANSYSの固有値解析の結果

摂南大学・土木工学科の頭井教授、中野様、濱野様にはお忙しい中、ユーザ訪問インタビューに対するお時間を作っていただきまして誠に有り難うございました。この場を借りてお礼申し上げます。

「ANSYS Product News1999 Summer」に掲載

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