[株式会社リコー]ANSYSの導入経緯とその活用について

今回のユーザ訪問は、主に電子事務機器を扱われ特にコピー機の開発・販売で有名な株式会社リコー様です。株式会社リコー様は、昭和11年に青写真用の感光紙やカメラ事業からスタートされ、現在は電子事務機器の大手として成長を続けていらっしゃいます。インタビューを受けていただいた方は、研究開発本部の渡邉センター長・片桐主席係長研究員・高浦主席係長研究員・赤沼研究員です。

(以後、株式会社リコーの方々の敬称は略させていただきます。)

まず導入の経緯ですが、最初に導入されたのは片桐さんですね。

片桐:たしか1990年頃です。我々の部署単独で検討して導入しました。最初のANSYSのバージョンはたしか4.4Aだったと思います。ことの始まりは、我々の部署でメカ用CADを導入しようという計画がありまして、その時にCADだけではあまりおもしろくないので、私を含めて数人で有限要素法のシミュレーションソフトを導入しようと考えていました。

導入当初はどのような機能を要求されていたのですか?

片桐:導入時、我々は光ディスクの可動部のシミュレーションを行いたいと考えていまして、構造的な振動と磁場解析の両方が出来るソフトウェアを探していました。他の部署では構造や磁場解析のソフトを使っていたのですが、我々専用に使用できる解析ソフトがほしかったのです。

ANSYS以外にも検討されていたのですか。

片桐:構造解析と磁場解析それぞれ専用のソフトウェアを別に検討していたのですが、操作方法がそれぞれ異なりますので、習得が大変ではないかと思っていました。ANSYSであれば、構造の振動解析や磁場解析が両方出来ますので、操作方法も1つだけ覚えればいいわけですよね。これが大きな導入理由です。
片桐:それにCADと連動が取れるということも導入理由の1つでした。実際のところは、今と違って当時はちょっと現実的ではなかったですけれど。それから最終的にはUNIX版を導入したのですが、実はPC版のANSYSがあったということが大きな理由でもあったのです。もし予算が削られてもPC版なら購入できるという意味なのですが。

当時渡邉さんは中央研究所でどのような業務につかれていたのでしょうか?

渡邉:1990年頃は、まだANSYSとは関わってはいませんでした。解析業務自体には就いていましたが、構造解析ではなくどちらかと言うと流体解析を行っていました。主に自作のソフトウェアです。確か1993年頃、リコーの基本シミュレーションソフトとしてANSYSが候補に挙がったとき評価のメンバーとなりまして、初めてANSYSに関わるようになりました。

当時は渡邉さんと片桐さんとは、面識はまだなかったのですか?

片桐:そうですね、コンピュータルームに行くと、よく会う人と思っていたぐらいでしたね。

振動解析や磁場解析以外は何か解析されていますか?

片桐:私の部署は光ディスクやMOなど似たような製品開発を担当していますので、やはり固有値解析や可動部の磁場解析が主に行われています。実際には、いくつか寸法をパラメータ化して、寸法を振りながら解析を行って、最適な値を導き出すことが多いですね。

磁場解析に関しては、日本のコンファレンスでもリニアコイルの解析事例を発表されていましたね。私も良い適用事例だと思いました。片桐さん自身はかなり設計に近いところで解析されているようですね。

片桐:設計に近いと言うより、設計の前の段階で使用する事が多いですね、例えばある仕様に基づいた部品を考えたときに、いくつか方式やアイデアがでるわけじゃないですか。それを全て実験するわけには行きませんので。いくつか特化したモデルでシミュレーションを行っているのです。コンファレンスで発表した磁場の事例もそのプロセスの1例です。
渡邉:研究開発本部では、ANSYSのMultiphysicsつまり連成機能をよく使用させていただいています。この分野は、他のソルバーに比べてANSYSが特に優れている部分だと思いますし、我々も非常に重宝しています。

片桐さんや赤沼さんは、部署内では解析を専任されているのでしょうか?

片桐:いや、CADと一緒に導入しようと考えているぐらいですから、解析専任というわけではありません。我々は、発案から基本設計、解析、実験まで全て自分でやらなければならないので、解析専任者というわけではありません。ごくたまに他の部署から依頼されることはありますが。解析を主たる業務にしているのは、どちらかというと渡邉や高浦の方ですね。

リコーさんの中で、解析に携わっておられるのは何名ぐらいでしょうか?

渡邉:そうですね。研究開発本部全体では、さまざまなシミュレーションに携わっているものを含めると20名以上います。構造・振動など力学系の解析はその中で半数以上と思います。このごろは、シミュレーションのすそ野はかなり広がっていて、正確につかむのが困難なほどです。私たちの基盤技術センターは片桐の部署とは違いシミュレーション解析を主たる仕事をしています。特に高浦のチームでは最近はANSYSを主力のツールとしています。
高浦:我々は研究部門ですので、解析は有限要素法に限らずシミュレーションはいろいろ行っています。リコーではカメラや複写機も設計しておりますので、光学系のシミュレーションも行っています。渡邉も申したように、私自身はANSYSをメインに使用させていただいているのですが、以前は光学系のシミュレーションも担当しておりました。
渡邉:科学技術計算への取り組みは、リコーは他社に比べて早かったと思います。カメラや複写機のレンズ設計を行っていましたから、光学系のシミュレーションはかなり早くから行っていました。当時は汎用コンピュータしかありませんから、昼は経理の計算を行い、夜中に科学計算を走らせるというような状態のようでした。その後、スーパコンピュータも導入しようかと考えていた時もあったのですが、その時期にちょうどダウンサイジングの流れが始まったのです。これからは、スーパコンピュータを導入するより優れたアップリケーションを導入することが重要と考え、その導入に力を注ぎました。

リコーさんには、CD-RWの解析をANSYSの特性を活かした解析事例としてご紹介させていただいているのですが、(ANSYSの解析事例の頁を参照)、このような解析を行ってきた中でいろいろ苦労もあったと思うのですが、いかがでしょうか?

片桐:私も他のソフトウェアをあまり知らないので、この苦労がANSYS固有の物なのか有限要素法固有の物なのかわかりませんが、磁場解析の場合、やはり空間部をメッシュ切りしなければならないので、導入当時のANSYSでは、メッシュを切るのに苦労しました。今のANSYSには、平面を先にメッシュ切りしてそのまま引き延ばせば3次元のモデルとメッシュが同時に出来てしまう機能が追加されていますよね。このおかげで結構楽になりました。また、これは失敗談になりますが、ANSYSじゃ節点上でしか数値が取れません。実験と比較するために解析を行っていたのに、実験での測定ポイントと同じ位置に節点が来るようにメッシュを切らなかったため、後で泣いた覚えがあります。解析後にも移動が楽だと便利なのですが。
片桐:それからCADとANSYSを導入した時に、上の人にどのようなシステムを導入したかを理解してもらうため、何回もデモンストレーションしました。アニメーションを使用すれば効果が高いので試そうとしたんですが、導入したばかりですから操作方法がわからず何度もサイバネットさんに電話させていただきました。

ANSYSへの要求はありますか?

片桐:部品の公差などを考慮して解析してくれれば良いと思います。例えば、プラス・マイナスで寸法を振ったときに、結果がどの程度変わるかがわかるような...。

実はそのあたりの機能はANSYSの機能改善として計画しています。直接公差を入れるのではなくて、例えば寸法のばらつきとか材料定数のばらつきなどを表す統計的な数値をあらかじめ入力しておいて、解析結果の確率分布のような数値で表してくれる機能です。

高浦:光学系のソフトでは、そのような機能が数年前から導入されているようですね。ANSYSでも評価特性に対するパラメータの感度評価が簡便化されるといいですね。

ただこれを行うには、寸法や材料のばらつきをあらかじめ知っておく必要がありますが。

片桐:でも、そのような数値は経験的に押さえておくことは出来ると思います。ただ光学系のレンズだと、部品点数も少ないですからまだ大丈夫だと思うのですが、機械部品だと、ばらつきがある寸法はかなりあるじゃないですか。それを全て入れる必要がある場合は大変ですね。
片桐:さらにIGES変換をもっと強力にしてほしいですね。あと、解析見積もりを自動的にやってほしい。見積もりを行う機能が有るのは知っていますが、いつも忘れてしまう。自動的にファイルやメモリーの必要量や解析見積もり時間を表示してもらって、それでも実行させるかどうか、つまりYESかNOかを選択させてくれるとうれしいのですが。

その件は、他のユーザさんにも言われたことがあります。現在は、見積もりだけでも結構CPU時間がかかってしまうので、自動化していないようです。

高浦:ワーニングとエラーメッセージの表示に一考を要すると思います。解に影響を与えるものとそうでないものに分けるとか。それから、中間生成ファイルの容量圧縮も合わせて解決して頂きたい課題です。

渡邉さんや片桐さんは、このような有限要素解析ソフトを、設計者に広めるには何が必要だと思いますか。

渡邉:私が思うには、汎用の有限要素法プログラムは汎用であるが故に設計者が利用するには複雑すぎると思います。たとえば複写機の中の機構は、ある程度決まっていまして、設計者の人は、全く新しい設計を常に考えているわけではありません。例えば、ある部品の穴の径をΦ10からΦ20にしたらどうだろうかというような思考が日常的にあるわけですね。設計者の人はパラメータとして数値を変更した場合、どのような変化が起こるのかを速く簡便に知りたいケースが多いわけです。
高浦:一般に設計者は、部品の形状配置や材料特性といった設計パラメータと評価特性の相関を考えながら、さらにコストも含めて設計の最適化を早く進めたい。こうした設計者のにニーズに対応するためには。必要最小限の入力で評価したい特性の結果が早く出てくるようにシステムをカスタマイズすることが普及の鍵でしょうね。
渡邉:このようなツールは、各事業所毎に作成しなければならないかもしれませんね。
高浦:設計の担当毎に課題が異なるので、ANSYSが全てのニーズに対応しカスタム化することは現実的ではないと思います。ANSYS自身もマクロ言語を持っていますが、機能が限定されておりますので、これにとどまらず、システムをオープンにして、ユーザプログラムとのインターフェース機能をより簡潔化することで、広く普及すると思われます。

最後に、リコーさんのシミュレーションに対して将来の展望等はありますでしょうか?

渡邉:ANSYSの連成機能が優れているという部分で、リコー内でもユーザが増えています。我々上流部分つまり研究部門では非常に活用したい機能がたくさんあります。ただ先ほどの話も含めて設計者に広めるには、メッシュの部分や材料特性を調べなければならないという部分で、まだきついのではというイメージがあります。ただ今後は避けて通ることができないでしょうね。
片桐:私自身他の人に勧める立場だと、磁場は空気層メッシュを切らなければならないという点でまだですが、固有値解析等は、簡単ですから他の設計者の人にもどんどん使ってほしいと思いますね。
高浦:私も連成解析機能には関心があります。リコーに限らず昨今の製品は各種の物理・科学的な要因が織り込まれておりますので、シミュレーション機能もこれに対応した形で進化していくのではないでしょうか?もう一つの方向性は自動設計機能の強化と考えています。コンピュータ性能の進化はこれを実現する追い風になってくれると思いますが、各種の最適化アルゴリズムの研究によりこの方面の機能もかなり強化されてゆくことと思います。10年後が楽しみですね。

株式会社リコーのみなさまにはお忙しい中インタビューの時間を作っていただき誠にありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。

「ANSYS Product News1998 Spring」に掲載

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