[大阪大学 古荘研究室]MR流体ブレーキの採用により、安全性の高いリハビリ支援ロボットを開発 ─ ANSYS Workbenchの磁場解析が活躍 ─

左から池田健一様、菊池武士先生、大月喜久子様、山口紗代様

今回のインタビューでは、大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻の菊池助教と、先生が所属される古荘研究室の皆様にお話を伺いました。
大阪大学工学部では、「知を生み、知を育て、知を発信して、社会に貢献する」工学部を目指しています。
その中で工学研究科 機械工学専攻は、環境破壊やエネルギー問題、医療・福祉の問題などの現代の社会的重要課題の解決を視野に、周辺の科学技術を取り込みながら基礎から応用までの領域の研究・教育を推進してきました。
古荘研究室では、医学と工学の複合領域でのロボット技術の応用を目指し、安全性の高いリハビリ支援ロボットや手術支援ロボット等、様々なロボットの研究開発が進められています。2005年の愛知万博に出展して注目を集めたリハリビテーションロボット「セラフィ」では、2006年度のグッドデザイン賞を受賞されました。またNEDOプロジェクト「人間支援型ロボット実用化技術開発」等への参加など、先駆的な研究活動が注目されています。

写真左から [大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻人間機械学領域 古荘研究室] :池田健一様、菊池武士先生、大月喜久子様、山口紗代様
(以後、お客様の名前の敬称は省略させていただきます。)

研究室の概要をご紹介下さい。

菊池
菊池 武士 先生
菊池 武士 先生
工学研究科機械工学専攻は、複合メカニクス部門、マイクロ機械科学部門、統合デザイン工学部門、知能機械学部門の4つの部門に分かれており、各部門が連携しながら研究を進めています。古荘研究室の所属は知能機械学部門の人間機械学という部門です。人員は研究員が1名、博士後期課程(博士)が5人、博士前期課程(修士)が10名、学部4年が6名という構成です。もともと人間機械学は制御系領域の一種なのですが、当研究室では制御理論と言うより実践的な応用をテーマにしています。特に医療・福祉に関する研究が中心で、例えばリハビリ支援ロボットや、リハビリ用のバーチャルリアリティゲームの開発、または手術支援ロボットなどを開発しています。研究は森之宮病院、兵庫医科大学、藍野大学、大阪電気通信大学 理学療法学科等の病院や医学系研究・教育機関と共同で進めています。我々は工学的なアプローチを中心に進め、上記に所属されている医師、理学療法士、作業療法士らには評価を重点的に行ってもらっています。

ANSYSの導入経緯はどのようなものでしたか。

菊池 導入したのは5年ほど前で、きっかけは磁場解析でした。我々の研究の一部で、機能性流体を用いたクラッチ・ブレーキの研究・開発を行っています。この一種にMR流体(MagnetorheologicalFluid)を用いた小型ブレーキの研究・開発があります。 MR流体とは、油系の溶媒の中に鉄の粒子を分散させた流体です。磁力を与えることで粘性が変化する特徴があります。この特徴を応用したのがMRブレーキです。 MRブレーキの内部に充填したMR流体に、やはりブレーキ内部に組み込まれた電磁石で磁場を与えれば、電流でブレーキトルクを制御することが可能になります。
このブレーキの開発には磁気回路の設計が欠かせません。手計算では精度良くトルク等を求めるのが難しいので、有限要素法解析が必要になりました。その当時からANSYS EDは使っていたのですが、磁場解析をやるには要素数が足りないですね。さらに、3次元の解析が必要になったので、教授を説得してANSYSの大学版を導入してもらいました。
導入当時は自分しか使っていなかったので、もっと利用者を増やそうとしてマニュアルを作って学生に配ったりしていました。やがて解析に関係する学生が2、3名は現れるようになり、年々引き継いでいってくれました。

研究の中で、ANSYSはどのように利用されていますか?

菊池 本研究室ではNEDOプロジェクトの「人間支援型ロボット実用化技術開発(2005 〜 2007年)」の一環として、リハビリに使用する下肢装具の研究開発を行っています。ここに先述のMR流体を用いたブレーキを搭載しており(図1)、ANSYSで磁場解析しています。
池田 図2はMR流体ブレーキの基本構造です。回転軸と、外側の固定軸に、多重ディスクが交互に付いています。その間にMR流体が充填されており、中心のコイルに電流を流すと流体の粘度が変化し、ディスク間のせん断応力が大きくなることでブレーキ力が発生します。図3の事例は、電流の大きさが変化することで、どれだけMR流体に磁力が発生するのか、ANSYSで解析したものです。
菊池 基本的にはディスク一枚でもいいのですが、ブレーキ力を大きくするために、あえて多層構造にしています。しかし多層にすると、流体の層のトータルの厚みが増えてしまいます。流体に使っているオイル自体は非磁性体なので、流体の層が厚くなると磁石になりづらくなるのです。そこで、この層の厚さを決定するためにANSYSで解析しました。
池田 360度のフルモデルでは計算に大変な時間がかかるので、1度分だけを切り出して解析しています。またモデリングにはAutodesk Inventorを使っているのですが、ANSYSWorkbench環境だとInventorで作ったモデルをそのまま解析に使えるのが便利で、よく使っています。
菊池 私が学生の頃はANSYS Classic環境を使っていたのですが、その後Workbenchに切り替えました。その一番の理由は、3次元CADデータとのリンクでした。当時、3次元CADを設計に使い始めていたのですが、CAD上の設計変更に、ANSYSの解析結果を反映させたかったのです。それに、昔のようにブーリアン演算などを使ってモデリングする必要が無くなった分、楽になりました。
山口 図4は理学療法士の教育用ロボットです。このロボットは患者さんを使って実習ができない場合に使うもので、足部を押したときに足関節にかかるトルクの大きさをセンサーで測定しています。このセンサーの設計にANSYSを使っています。
菊池 たとえば脳卒中の方の場合は、関節が非常に硬くなってしまったり、動かす早さによって硬さが変わったり、ガタガタと律動的に動くなど、色々な症状があらわれます。そのため、足部を他動的に押して関節の挙動を見ることで、麻痺の度合いを判断しています。理学療法士の学校ではこれを学生同士で模擬的に練習してきたのですが、ロボットを使って脳卒中の患者と同じような力学的挙動を提示できれば、教育用に利用できます。また、もしロボットに患者と同じ挙動を出力させることができれば、その制御系は人間のものと同じになっているかも知れません。脳のメカニズムについては、臨床学的に知られているだけで詳しい数式モデルはわからないことが多いので、いずれコンピュータで解明できるようになると面白いですね。今は単に、力学的に同じような動きを行うロボットを実現しようとしています。
図5が解析事例です。トルクセンサーは割と高額ですし、このロボットの大きさや形に合うものが見つからなかったので自作しました。穴の部分は、あえて材質的にひずみが発生しやすい状態にしていて、この上にひずみゲージを貼り、測定しています。
山口
山口 紗代 様
山口 紗代 様
四角い穴を空けることもありますが、今回は加工のしやすさから、穴を2つ繋げた形状にしています。上から力を加えたときに生じるひずみを、センサーで測定します。ひずみゲージを4枚使い、ブリッジ回路を形成することで余分な方向の力を相殺し、曲げモーメントのみを測定できるようにしています。モデルは3次元CADからデータを持ってきて、ANSYSで解析しています。材質のアルミ合金は、大きなひずみが発生すると塑性変形を起こす危険性があります。しかし、ひずみ量が小さすぎるとセンサーとして検出できる信号が小さくなり、S/N比が低下してしまいます。そこで、約0.1%のひずみ量にすることを目標にしました。一方、ひずみゲージを貼るのは表面だけですので、モデル全体の最大ひずみ量と表面のひずみ量が近い値になるように、穴の距離や大きさなどの寸法を少しずつ変えて、何度も繰り返して解析しています。
その結果、求めた寸法で回路を組んで実際の挙動を確認したところ、解析値と同じような結果を出すことができました。
菊池 このブレーキについては、熱も解析してみたいです。熱解析で一番難しいのは、材料の性質や境界条件ですね。熱の計算パラメータや、対流の計算など特に難しそうです。しかし、こういう装置でも発熱すると非常に危険なので、必要なのではない用してもらった結果、問題ないと言われていますが。

今後取り組んでみたい解析や、課題と感じている点は何ですか?

池田 実際には運動も関係します。磁場解析に運動を加えたら非常に複雑になりますが、できればやりたいですね。制御が加わるということで、激しい運動に対しても適用できるのでしょうか? 例えば、パラリンピックのような競技で、アスリートの方向けの義足として適用できる可能性は高いのでしょうか?
菊池 可能性はありますね。ユーザにある程度運動性があるほうが制御しやすいので、むしろ競技向けの義足のほうが制御系の開発はしやすいかもしれません。ただし、ハード面での強度の保証などはハードルが高くなると思います。

ANSYSの機能についてご要望などはありますか?

菊池 Workbenchで2次元の解析もできるといいですね。また、静磁場解析だけでなく、動磁場解析もWorkbenchでできるといいと思います。欲を言えば、そうした詳細な解析したいですね。でもその反面、我々は実際にものづくりをして、改良を繰り返していくといった研究ですから、解析ばかりに時間を使えないのです。できるだけ新しい技術を取り入れて、効率化できる部分は効率化したいですね。

サイバネットシステムに対してはいかがですか?

菊池 オンラインサポートは回答が早いですね。最近、その存在を知って使うようになりました。
池田 他社のサイトもそうですが、ホームページはできるだけ見やすいのがいいですね。特にサポートは困っている時に見るので、すぐに情報が出てこないと困ります。すぐに解決方法が見つかるようなサイトだと、何度でも訪問したくなります。それから、やはり最初のうち、解析は敷居が高いと感じました。本当に簡単なモデルでいいので、初めて解析する学生でもできるような例題があれば、敷居がぐっと下がると思うんです。一回自分でやってみれば、次はその例題を少しずつ変えながら応用していけますよね。
大月
大月 喜久子 様
大月 喜久子 様
磁場解析を始めたとき、菊池先生にQuick-A(サポート専用サイト)から例題をダウンロードしていただきました。何から手をつけていいのか判らず困っていたので、この資料が本当に役に立ちました。ああいう例題がもっと沢山あるといいと思います。

例題については、当社のサポート専用サイトQuick-Aで、WorkbenchSimulationのセミナーテキストを公開しており、Workbenchのほぼ全ての機能をカバーしています。そこに簡単な例題集が、モデルデータ付きで入っていますので、ダウンロードしてご活用ください。
磁場解析はWorkbenchに最近取り入れられた機能なので、例題はまだあまり多くないのですが、これからもClassicのGUIにある機能をWorkbenchに移植していく計画です。磁場の機能が増えるとともに事例も増えていくことと思います。
また、Quick-AにはFAQもあるので、解らないことがあったときにキーワードで検索してみていただくと、ヒントが見つかるかもしれません。例題を使ってからは、磁場解析もスムーズに進んだということですね。

大月 例題のおかげで、何となく方向性が見えてきました。でも実際に解析するモデルは違うので、例題のどこをどう変えたらいいのか、はじめはちょっと苦労しましたね。
池田 でも、一度方向性が見えてしまえば繰り返して改良していけるので、どんどんスピードは上がっていきます。同様に、一人でもわかる人がいれば、そこから一気に広がっていくので早いです。

そうですね。解析に関して、学生の教育はどうされていますか。
研究室で何か工夫されている点はありますか?

菊池 教育というより、学生には情報だけ与えて自発的に学習させています。ただ、引継ぎは重要ですね。在籍している間に、できるだけ後の人が見ても解るような資料を残しておくよう指導しています。現在、3名の学生がWorkbenchで解析をしていますが、大月さんが作成してくれた磁場解析用のマニュアルを使っています。私もこのマニュアルを見て、Workbenchを使ってみようと思っています。

学部では有限要素法や解析ソフトを使った授業はあるのでしょうか?

菊池 有限要素法、差分法、境界要素法は学部3年生で習います。彼らが学部にいた頃は手計算でできる範囲の例題が主でしたね。
今はプロジェクトベースの授業で解析ソフトを使う場合があるようですが。
山口 今でも、Workbenchで出した結果の検証には手計算を使っています。
池田 健一 様
池田 健一 様
池田 解析結果の検証は必要です。特に解析の最初の段階では手計算は大事だと思います。
はじめに解析結果と手計算が合っていることが解れば、あとはそれを信じて応用していけますから。先ほどのブレーキの研究でも、昨年、実際に実験した結果と、解析で出した結果が同じだったので、自分のやり方が合っていることが確認できました。その上で、今年解析をしているので、信頼度は上がっていると思います。
菊池 MRブレーキの開発では、昨年作成したモデルで実験結果と解析結果が大体合っていることも確認しています。今年のモデルも実験結果との比較は行う予定です。
非常に重要なお話ですね。実際に企業の中では、設計者など有限要素法になじみのない方が解析ソフトを使うことが増えています。そのため事前の予測がないまま解析をしてしまって、結果を鵜呑みにしてしまうことが教育担当者の間で問題になっているようです。間違った解を正しいと思って設計を進めた結果、後で設計変更が出てしまえば余計なコストが発生しますから。事前検証をするという考え方は非常に重要だと思います。
菊池 使いやすくなりすぎるのも、大学としては問題なのかもしれません。大学では「教育」をしているので、ただ使うのではなく有限要素法などの理論もきちんと知っていなくてはならない。そういう勉強も必要ですね。

図1 MR流体ブレーキ 図1:MR流体ブレーキ


図2 MR流体ブレーキの基本構造 図2:MR流体ブレーキの基本構造


図4 理学療法士向け 教育用ロボット 図4:理学療法士向け 教育用ロボット


図3 解析事例(1) 新型MR流体ブレーキのコンパクト化 図3:解析事例(1) 新型MR流体ブレーキのコンパクト化


図5 解析事例(2) 足関節トルクセンサーの設計 図5:解析事例(2) 足関節トルクセンサーの設計


大阪大学 古荘研究室の皆様には、お忙しい中インタビューにご協力いただきまして誠にありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます。

「CAEのあるものづくり2008,Vol.8」に掲載

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