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解析事例

NECエンジニアリング株式会社

決め手は操作性とOneSpace Modelingとの連携─ 人工衛星搭載機器の構造設計現場で、Ansys Workbenchの利用が拡大 ─

木下 佳久 様

NECエンジニアリング様は、「ケータイから宇宙関連機器まで」幅広い分野にわたる開発経験と、永年の開発で得た多様な技術力を基盤とし、サーバシステムとネットワークシステムの融合を実現するシステムソリューションやインターネットを基軸としたアプライアンス機器の開発・システム提供、最先端の情報通信機器などを開発・提供されています。

今回インタビューにご協力くださいましたのは、モバイルブロードバンド事業部 第三宇宙開発部の皆様です。第三宇宙開発部は、人工衛星搭載機器の熱・構造設計、プリント配線板のパターン設計および衛星サブシステムの熱・構造設計などの業務を担当しており、人工衛星搭載機器の構造設計部門としてはNECグループ内でも最大規模です。

写真左から [モバイルブロードバンド事業部 第三宇宙開発部] マネージャー:一斗隆志様、エキスパート:楜沢祐司様、主任:長谷川仁様、主任:進藤光様
(以後、お客様の名前の敬称は省略させていただきます。)

まず、第三宇宙開発部の業務についてお聞かせください。

楜沢

衛星サブシステムから人工衛星搭載機器(以下、「搭載機器」)、機器内に実装するプリント配線板まで、幅広く設計業務を行っています。設計では放熱・耐振性を検証しつつ、レイアウトや形状の最適化を行い、常に軽量化と小型化を考慮しながら設計しています。
宇宙という特殊な環境に対応した設計を行なう必要があるため高い技術力を要求されますが、それが困難なところでもあり楽しいところでもあります。

長谷川

私たちの設計業務は、レイアウト検討や詳細設計および製造図面の作成を行う一方、構造解析や熱解析など各種解析業務に加え、環境試験の立ち会いやお客様への提出技術文書の作成など、仕事の範囲が非常に広範囲にわたります。

進藤

だからできるだけ簡単に、早く解析できるツールが必要です。
図面作成などのいろいろな仕事をこなしながらでも容易に使用できる解析ツールが必要でした。

現在ご利用のCADやCAEについてお聞かせください。

楜沢

CAD はOneSpace Modeling です。CAE ではAnsys と他社ツールを使っています。Ansys の操作環境は、Ansys Workbench 環境と従来のClassic 環境の両方を使っていて、OneSpace Modelingで作ったモデルを解析する場合はWorkbench、ランダム応答解析や固有値解析など、非常に複雑なモデルや節点数が多いモデルの解析にはClassicという風に使い分けています。

Ansysの導入経緯はどのようなものですか。

楜沢

初期の導入は1999年頃でした。当時は、CAEツールが複数存在する環境でした。その後、Ansysと他社ツールを設計対象や解析規模、解析種類などによって使い分けるようになりました。それが、Workbench Ver 9.0を使い始めた頃から操作性の観点で徐々にAnsysに片寄りはじめ、最終的に搭載機器設計においては全員Ansysユーザになりました。
他社ツールからAnsysに変えたもうひとつの理由は、サポートの体制が非常に良かったことです。それに特別セミナーなどが充実していて、ノウハウの向上のために一生懸命サポートしてくれている様子に好感が持てました。Ansysのセミナーに出席するにつれて、どんどんAnsysのノウハウが増えていきました。

長谷川

私はずっと他のツールを使っていたのですが、何年か前にそれまでとは別のお客様を担当するようになってからAnsysを使うようになりました。一番の決定打はランダム応答解析でした。現在のお客様のところではランダム応答解析による応力結果のコンター図表示が必要なのですが、他社のツールは使い難かったです。

一斗

Ansysは当初から熱解析に強かった印象があります。人工衛星の機器設計エンジニアの場合、構造解析から伝熱解析、実装設計までオールマイティにこなすのですが、他のツールは熱解析をするには使い勝手が今ひとつの印象でした。熱と構造の両方を解析する上では、どちらの解析結果にも信頼がおけたAnsysが一番適していました。

つまり、機能的な面やサポート、セミナー等、様々な要因を総合的に判断した結果、Ansysになったということですね。

楜沢

はい。やはり決め手はWorkbenchです。私たちの設計は、現在では全員Workbenchを使用しています。Workbenchだからこそ使えるんです。
部内では一時期、他社ツールに統一しようという動きもありましたが、その時に営業の方に紹介いただいたのがWorkbenchでした。使ってみて、すぐに操作性が気に入りました。その後、Geometry for OneSpace Modelingのライセンスを追加しました。連携機能を使うことによりOneSpace上での設計変更を、すぐ解析モデルに反映できて非常に便利でした。そこからライセンスを追加することになり、一気に部内での利用が広がりました。

決定的なきっかけとしては、Workbenchの利用があったわけですね。

進藤

そうです。Classicは覚えるのが大変そうと思われていて、なかなか使ってもらえませんでした。Workbenchは設計しながら使うツールとしては一番便利だと思います。だから、これだけ設計者の中で普及したのだと思います。

楜沢

Workbenchなら特に教育を受けずに使えますから。それに、メッシングのエラーが少ないのも良いです。

長谷川

私は他社ツールとAnsysを併用していますが、他社ツールの場合、CADから取り込んだモデルをオートでメッシュを切ってもエラーが出ました。モデルの規模が大きくなればなるほどその傾向は強くなります。ところがWorkbenchの場合は殆どエラーが出ない。皆無に等しいです。このストレスがないところは非常に大きなポイントです。

進藤

解析モデルを作成する時に、メッシュを考えなくていいのは凄く楽なんです。設計者がそこまでやるのは大変ですから。 それから、熱解析のときに接触要素による熱抵抗を生成できるのが便利です。

一斗

あと、出力した解析画像が一番きれいなのはAnsysだと思います。様々な場面でお客様に対しては解析結果の資料を提出するのですが、ビジュアルがいいとプレゼンテーション効果が高まります。

実際に設計されている製品や、Ansysの適用事例についてお聞かせいただけますか。

楜沢

搭載機器とは人工衛星に搭載する通信機器や制御機器などです。例えば、図1はその搭載機器の一つです。解析内容としては、固有値解析や静加速度解析、ランダム応答解析です。また、伝熱解析や熱応力解析を実施しています。伝熱解析では輻射を考慮した解析をすることもあります。

長谷川

私は、機器内部の電子デバイスやプリント板上の電子部品の耐振性検証のためランダム応答解析を実施することが多いです。

進藤

機器を取り付ける衛星の構体パネル側が壊れないか検証するために、ランダム応答解析の結果をもとに反力を出すこともあります。全ての機器でこれらの解析をするので、年間の解析実施件数としては相当な数になります。

モデルは薄板形状が多いのですか?

楜沢

機器の構造部材は主に軽金属の切削品ですが、とことん軽量化を行うため薄板形状が多いです。また、切削形状が複雑で、シェルによるモデリングは大変な作業でした。今はPCの能力が非常に向上したので、大半は3Dデータをそのまま利用して解析ができるようになりましたが、図1の解析事例のように規模が大きくなると、3Dデータの穴開けを削除したり切削Rを直角にしたりなど、実は見えない苦労も色々としています。機構部品データに手を全く加えず3Dデータをそのまま使えると楽だなと思います。

一般的に、薄板の場合はシートやビーム要素を中心に解析されてきたと思いますが、WorkbenchではVer.11.0からソリッドシェル要素が使えます。もっとも、リブが入っている場合はソリッドシェル要素図1 OneSpace ModelingとAnsys Workbenchの活用が使えないのですが。その場合はAnsys DesignModeler(形状作成・修正ツール)を使ってモデルを修正すれば、シェル要素で解析できます。
また、Ver.11.0ではWorkbenchのメッシュの機能も強化されています。1つは、CADのフィーチャーに左右されずに、あらかじめユーザ側が要素数を指定できる機能です。必ず四面体になってしまいますが、CADのフィーチャーをある程度無視してメッシュを切ることができます。
もう1つは仮想トポロジという機能で、フィレットや面などの細かいフィーチャーを連結化することができます。以前は手動でこの作業をしていましたが、今は自動で行えます。

ところで、解析精度を上げるためのテクニックや、評価方法についてお聞かせいただけますか。

楜沢

機器の実機試験においては固有値の試験データが解析値と合わないことがあります。その場合、要素間の結合条件を変更して解析するなどしています。あとはWorkbench上で摩擦の設定ができるので、それも使いながら工夫している段階です。
固有値解析においては、実測データと比較しながらケースバイケースでモデルを最適化するノウハウを収集しています。

進藤

私はClassicを数年使ってきましたが、いかに簡単にモデルを作って結果を合わせるかが課題になります。

一斗

我々が設計した機器は必ず振動試験などの出荷試験をします。
そこで得られた試験結果をフィードバックすることができます。それをもとに、どういうモデリングが正確に結果を出せるか、繰り返し、繰り返し試していく。泥臭いようですが、こうして積み上げた経験値が我々の最大のテクニックおよびノウハウになっていると思います。

解析のノウハウは、どのように社内で共有されていますか。

楜沢

ノウハウレポートや解析報告書を関係者に配付するといった、推進者による展開です。また社内のイントラネットに解析事例を掲載して共有化を図っています。最近では、サイバネットさんのサポートからの回答も共有していて、社内教育に役立てています。

今後のAnsysの方向性についてご要望をお聞かせください。

楜沢

3次元CADデータをそのまま使っても、固有値解析やランダム応答解析が楽にできると良いです。以前はOneSpaceのデータをWorkbenchに持ってくる場合、形状をかなり簡略化しないと解析は厳しかった。PCへの負荷が高かったからです。今は64bitマシンを導入したので大分改善されましたが、それでも時間はかかるので強化して欲しいです。

長谷川

私はOneSpaceとのインタフェースをさらに充実させていただきたいです。OneSpace上で物性値や密度が入力できて、それがさらにWorkbenchに転送されると凄く良いです。
また、3次元CADからWorkbenchにモデルを転送するときに、CADの部品構成のツリーをそのまま引き継げると良いです。

楜沢

IDAC材料データベースは非常に良いと思いますが、もっと専門的な内容が網羅されていればと思います。特に航空業界で使う分野を強化して欲しいです。

当社のサポートやセミナーについてはいかがですか。

楜沢

サポートはとても良いと思っています。回答が非常に丁寧でわかりやすいです。引き続きぜひ宜しくお願いします。

進藤

昔はもっと時間がかかったと思いますが、今はびっくりするくらい回答が早い。
ただ、FAQがもう少し見やすくなると良いです。検索しても見つからなくて、結局また問い合わせてしまうことがあります。

最近はFAQの数を増やすことに注力していましたが、今後はもう少しデータを整理していく必要がありますね。

楜沢

はんだの寿命解析も、より簡単な方法があればセミナーなどで紹介して欲しいと思います。

一斗

「ものづくり」ではなくて「人づくり」、つまりはCAEに絡んだエンジニアの人材育成に関するセミナーもあると良いと思います。また、Ansysの初級や中級セミナーなどを受講すると、計算力学技術者の資格が取得できたり一部免除されたりするようなので、我々も取り組んでいきたいと思います。

教育に関するセミナーとしては、Ansys Conferenceで教育事例を紹介したり、CAE技術者の教育方法をテーマとした特別セミナーを不定期に開催しています。
また、サイバネットシステムでは今年の10月より「CAE University」という定期講座を開講します。これはAnsysなどの当社取扱い製品のユーザ様に限定せずに基礎理論や実験などを広く扱うもので、CAEを使いこなすために役立つ知識を習得することを目的としています。講師としては大学や民間企業のエンジニアの方をお招きする予定です。

NECエンジニアリング株式会社の皆様には、お忙しいところインタビューにご協力いただきまして誠にありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます。

「CAEのあるものづくり2007,Vol.7」に掲載

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