[明星電気株式会社]超小型衛星「WE WISH」の熱設計でANSYSを活用


左から久保様、水本様、畠山様

今回のインタビューでは、明星電気株式会社様にご協力いただきました。1938年、国内初のラジオゾンデメーカーとして創業された明星電気様。以来、地域気象観測システム「アメダス(AMeDAS)」や計測震度計など、私達の安全で快適な生活には欠かせない気象・防災関連製品を、数多く開発してこられました。
また、国際宇宙ステーションや「かぐや」「はやぶさ」などの人工衛星にも、明星電気製のカメラや観測機器は数多く搭載されており、日本の宇宙開発になくてはならない存在でいらっしゃいます。さらに2012年10月には、自社開発の超小型衛星「WE WISH」が国際宇宙ステーションからの放出に成功し、大きな注目を集めました。
今回は、明星電気様で熱設計を担う、技術開発本部 装置開発部の皆様にお話を伺いました。

今回お話いただいた方々
技術開発本部 装置開発部
主 任 水本 訓子 様
畠山 千尋 様
久保 和範 様

(以下、お客様の名前の敬称は省略させていただきます。)

目次

水中から宇宙までをカバーする世界のトータルソリューションプロバイダー

- まず、御社の事業内容についてお聞かせください。

当社は1938年の創業時、気象観測装置「ラジオゾンデ」からスタートし、「アメダス」「計測震度計」などを気象庁に納入するなど、常に日本の気象観測、地震観測の中枢を担ってきました。近年では先端技術を活かして、「水中から宇宙までをカバーする世界のトータルソリューションプロバイダー」を目指し、自然環境・防災のための多種多様な製品を提供しています。

製品は大別して(1)気象関連製品、(2)防災関連製品、(3)制御関連製品、そして(4)宇宙関連製品が挙げられます。

分野別に例を述べますと、(1)気象関連製品では、例えば気象観測装置のアメダスは、全国の1,300箇所に配置され、気象情報を提供しています。またラジオゾンデ関連では、現在では気象変化予測や温暖化防止活動に貢献するためにCO2ゾンデを開発中です。また日本全国の空港に設置されている航空気象観測装置は当社の製品で構成されています。

(2)防災関連製品は、地震や津波、台風、洪水、山崩れ、土石流など、様々な災害から人命を守るために、各種の観測装置を製造しています。例えば、気象庁から発信される緊急地震速報から、推定震度と地震発生までの余裕時間を演算し表示する「QCAST」や、強い揺れが到達する前に震度を予測する「ナウキャスト計測震度計」は、多くの団体・企業などに導入いただいています。

(3)制御関連製品では、航空管制システムなどがあります。たとえば東日本大震災の際には、当社の非常用航空管制塔システム「EVA」は、羽田空港から仙台空港へいち早く移動され、早期復旧に貢献しました。

そして(4)の宇宙製品ですが、多くの製品が宇宙ステーションをはじめ、数多くの場所で活用されています。

2010年に、小惑星探査機「はやぶさ」が無事帰還したことを覚えておられる方も多いかと思いますが、「はやぶさ」には明星電気の開発した蛍光X線分光装置が搭載されていました。その際、本装置が小惑星「イトカワ」で観測した微粒子の成分と、「はやぶさ」が持ち帰った微粒子の成分が一致したことが、「イトカワ」由来だと判断する決め手となりました。

また最近では、明星電気が開発・製造した超小型衛星「WE WISH」(10cm角,重量約1.2kg)が、2012年10月4日(木)23時37分(日本時間)に、国際宇宙ステーション(ISS)日本実験棟「きぼう」から、星出宇宙飛行士のロボットアームの操作により無事、放出されました。

開発期間の短縮が宇宙製品でも課題に。手戻り削減の手段としてCAEを活用

- 御社の活躍は、テレビや雑誌などでも多く拝見しています。そして、このWE WISHの開発にANSYSが使われたのですね。詳しくお伺いしたいのですが、まずは担当者の皆様の役割についてお聞かせください。

水本 私達は主に人工衛星やロケット、国際宇宙ステーションに搭載する観測機器などの熱設計全般を担当しています。
畠山 その1つがANSYSのような解析ツールを使ったシミュレーション業務で、問題がある場合は設計にフィードバックします。また製品の熱真空・熱平衡試験や試験計画の立案なども行っています。

- 熱設計では、現在どのようなツールをお使いですか。

水本

水本 訓子 様
人工衛星は惑星の周辺を回っています。太陽光の角度や惑星からの赤外線などの条件が時々刻々と変化するため、軌道解析が求められます。そこで、熱設計ではANSYSのほか、Thermal Desktopという軌道解析ツールを使用しています。両者の使い分けは、衛星の外部に搭載されて宇宙空間に直接曝される製品なのか、内部に搭載されるかです。衛星でも国際宇宙ステーションでも、宇宙空間に曝露するものは太陽光や惑星赤外の影響を受けるので、軌道解析が必要です。内部に搭載されるものはこれらの影響を受けませんので、ANSYSで解析しています。

- お客様の開発課題についてお聞かせください。

水本 宇宙環境は、地球上では想像もつかないくらい過酷なものです。宇宙機器はその環境下でも正常に動作しなくてはなりません。万一、不具合が起きても部品を交換することはできませんし、製品には極めて高い信頼性が求められます。熱設計においても、慎重に検証を重ねて、万全な熱対策をとらなくてはなりません。
畠山 それでも従来は、宇宙製品の開発期間は非常に長く、10年前は10年前後というのが一般的でした。しかし近年、開発期間の短縮が求められるようになり、試験の代用としての解析の役割が大きくなりました。
水本 お客様に提出する解析結果も、以前よりかなり詳細なものになってきています。当社も品質に責任を持つメーカーとして、考えられる限りの条件で解析するようにしています。

超小型人工衛星「WE WISH」の熱解析をANSYSで

水本 こちらがWE WISHの解析事例です。サイズは10cm四方のサイコロ型をしたもので、図は中が見えるよう、3面を非表示にしています。
久保

久保 和範 様
上には基板があり、右下は地球の赤外画像を撮るための赤外カメラです。その隣のバッテリーは、四角いソリッドでモデリングしています。左側に付いている磁気トルカは形状が複雑なので、綺麗にメッシングするのに苦労しました。
水本 衛星にはパドルが2面ついており、放出後にパタンと開く仕組みになっています。衛星の周りについている黒いものが太陽電池セルです。各面2枚ずつですが、地球に面している部分はスペースの都合で、1枚ずつ配置しています。解析した条件は、斜め(xyz=(0,1,-1)方向)から太陽光が入射しており、+Y面と+Y側パドルに太陽光が当たっていると想定しています。また6面すべてが宇宙空間と輻射結合し、さらに+Z方向に地球からの赤外輻射を与えています。さらに、内部の基板やバッテリーなどの部品には自己発熱を定義しています。このような解析で、太陽光及び地球赤外による熱入力と、宇宙空間との輻射、そして内部の自己発熱のバランスにより解析結果が出ます。

- 思ったより温度は上がらないものですね。

水本 宇宙空間では、太陽光が当たる部分は高温(およそ200℃)になり、陰の部分は低温(およそ-150℃)になります。それでは衛星が壊れてしまいますので、WE WISHでは、衛星内部の基板や部品の温度が使用可能温度範囲に収まるように、熱くなり過ぎず冷たくなり過ぎないよう熱バランスを考慮した設計を行いました。

- 非常に綺麗にメッシュが切られていますね。かなり苦労されたのではないかと思います。

水本 そうですね。ANSYS Mechanical APDLでモデルを描いており、モデリングには一番時間を割きました。
久保 モデルにはシェルとソリッドを両方使っています。またステーの部分にはリンク要素を使ったりと、メッシュを綺麗に切るために様々な工夫をこらしています。

- 材料データはどのように用意されていますか?

畠山 様々な文献からデータを集めて、社内でデータベースを作っています。大変な作業ですが、宇宙製品で使える材料は限られていますので、一度データを揃えてしまえば多くの製品に活用可能です。

- Thermal Desktopの軌道計算では、どのような解析をされているのですか? ANSYSのモデルや解析結果をお使いですか?

水本 ANSYSとは別にモデリングしています。軌道解析では、太陽光入射角等の環境条件が刻々と変化するなど、条件設定が非常に複雑なため解析に大変な負荷がかかります。ANSYSの解析と同じノード数で計算するのはとても現実的ではありませんので、軌道解析用にもっとノード数を減らした差分法モデルを作成しています。

- ところで、社内教育はどうされていますか?

水本 基本的にOJTですが、私は入社時に入門セミナーを受講し、基本の使い方は習いました。あとは分からない部分は先輩に聞いたり、困った時に相談するなどして、少しずつ覚えながらスキルを上げていきました。
久保 最初、ANSYS Mechanical APDLは機能が非常に多いので、どこを操作すればよいか分からず戸惑いましたが、分かってくると機能が豊富で便利だと思うようになりました。ANSYSのように、ひとつの解析ツールでモデルも作れて、境界条件やメッシュも詳細に設定でき、さらに解析結果も出せるのは便利だと思います。私は新人でまだ勉強中なので、もっといろいろな機能が使えるようになりたいです。ANSYS Workbenchでモデリングツールがあるようなので、使い勝手の良いものが見つかれば導入しても良いかと思います。
畠山 サポートはQuick-Aの掲示板を利用したことがありますが、丁寧で回答も早かったので助かりました。

今後の課題は流体解析や熱応力解析。モデル作成の工数削減のために、ANSYS Workbenchにも注目

- 今後の課題についてお聞かせください。

水本 モデリングにかかる時間を減らしたいです。ANSYS Mechanical APDLでモデルをゼロから作成していると、簡単なものでも2 〜 3日、大掛かりなものは数週間を要します。またANSYS Mechanical APDLは人によって向き不向きがありますし、教育にも時間がかかります。もしANSYS Workbenchに切り替えれば、誰でも取り組めて、しかも時間も短縮されるのなら利点は大きいかもしれません。
畠山 CADデータが使えるのはやはり楽ですね。試しに、構造の簡単な装置の解析をANSYS Workbenchを使ってやってみようかと考えています。使い勝手が良ければ、今後の解析に取り入れていくことも検討していきたいです。
久保 ANSYS Workbenchの場合、メッシュは自動で切るしか方法はないのでしょうか?任意のノードを、自由に動かすことはできないですよね?

- ANSYS Workbenchは、もともとCADライクに、誰もがメッシュを気にせずに解析できるような環境を目指して開発されました。そのため基本的にはオートメッシュですが、近年、ANSYS, Inc.が買収したCAEベンダー各社のメッシング技術が、急速にANSYS Workbenchに集約されてきています。そのためオートメッシュでありながら、特定の場所の要素サイズや形状など、かなり細かいコントロールも可能になりつつあります。
また、ANSYS Mechanical APDLの伝熱解析の機能のほとんどはANSYS Workbenchで利用可能です。他の解析分野も、足りない機能はANSYSのコマンド追加で対応できますので、できるところはANSYS Workbenchで自動化し、あとは適宜スクリプトで補う、というように併用されていくのも良いと思います。

畠山

畠山 千尋 様
宇宙空間には空気はないのですが、宇宙ステーション内はエアーを当てて冷却したり、コールドプレートという液体を流して熱を逃がす等の流体解析のニーズがあります。現状では理論的にエアーの熱伝達係数などを計算しているものの、エアーの現象は複雑なので誤差が生じやすいです。流体解析でこの課題に取り組めたら良いと思います。
またカメラ関係では、熱応力による変形でピントが合わなくなることがありますので、その評価のため熱応力解析にも取り組みたいです。

- 非線形性が強い場合や、宇宙特有の条件設定が必要な場合など、内容によっては解析専任者が必要かもしれません。ただ、モデルが非常に綺麗にできていますので、単純な熱応力解析なら比較的すぐに実施可能かと思います。

- 今日は宇宙製品という、なかなか聞くことのない貴重なお話をありがとうございました。WE WISHの開発にANSYSをお使いいただき、非常に嬉しく思います。今後もぜひ、お役に立てれば幸いです。技術セミナーやサポート等もどうぞご活用ください。

明星電気株式会社 水本様、畠山様、久保様には、お忙しいところインタビューにご協力いただき、誠にありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます
【メカニカルCAE事業部 マーケティング部】

「CAEのあるものづくりVol.18 2013」に掲載

明星電気株式会社様の解析事例

超小型衛星「WE WISH」の熱解析

宇宙空間では、太陽光が当たる部分は高温(およそ200℃)になり、陰の部分は低温(およそ-150℃)になります。それでは衛星が壊れてしまいますので、WE WISHでは、衛星内部の基板や部品の温度が使用可能温度範囲に収まるように、熱くなり過ぎず冷たくなり過ぎないよう熱バランスを考慮した設計を行いました。
「超小型衛星「WE WISH」の熱解析」の詳細

明星電気株式会社様の商品展示室

インタビューの後、明星電気様の商品展示室を見学させていただきました。
ここは博物館?そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。それもそのはず、展示物の中にはニュース等で見聞きした製品がずらりと並んでいます。中には、別施設で出展中の製品も幾つかありました。

※続きは画像をクリックしてご覧ください。

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