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解析事例

株式会社明電舎

さらなる「環境に優しいものづくり」を目指して。Ansysによるフロントローディング開発を全社的に推進

本インタビューでは、株式会社 明電舎様にご協力いただきました。
1897年(明治30年)の創業以来、電機メーカーとして様々な技術や製品・サービスを創出してこられた明電舎様。電力システムや水処理施設など、私たちの生活に欠かせない社会インフラの構築に、大きな貢献をされてきました。近年では、三菱自動車様の電気自動車「i-MiEV」の駆動システムやメガソーラーシステムの開発など、低炭素社会実現のための製品開発にも精力的に取り組まれています。
また明電舎様は、フロントローディング開発の実現や、より環境に配慮したものづくりを行なうために、シミュレーションの推進活動を全社規模で展開なさっています。

今回は、その活動の中核を担う研究開発本部の皆様にお話をお伺いしました。

(以下、お客様の名前の敬称は省略させていただきます)

構造から熱流体、電磁場まで。
マルチフィジックスシミュレーションを活用

ではまず、皆様の担当業務をお聞かせください。

渡辺

私は解析・制御センターに所属しています。専門は機械分野の解析ですが、社内のCAE教育なども担当しています。また最近では、環境負荷をさらに低減するための方法について、日々色々と研究を重ねているところです。

佐々木

私は同部門で構造解析を担当しています。環境に配慮した設計を行うため、特に最近では寿命設計に取り組んでいます。

高橋

私は電磁界解析を担当しています。従来は、モーターなどの周波の解析をメインで行なってきましたが、最近ではEMC(高周波電磁ノイズ)の問題も重要になってきているため、高周波の電磁界解析も活用しています。

江尻

私は、主に熱流体解析を担当しています。解析対象は回転機や大型の盤などで、近年では熱対策や冷却の問題にも力を入れています。

紙谷

私は、今年1月から解析・制御センターを担当し、このメンバと仕事をするようになりました。以前はずっと営業技術としてエネルギー関連機器や通信分野の製品を扱っていました。

現代生活に欠かせない、社会インフラの構築に大きく貢献。
近年では、電気自動車「i-MiEV」の駆動システムの供給も。

御社の事業内容についてお聞かせください。

紙谷

当社の事業は、社会システム事業、産業システム事業、エンジニアリング事業などがあります。社会システム事業は、いわゆる社会ンフラの構築に関連するもので、電力や省エネに関する製品、つまり発電送電、変電、配電などに関する電気機器の製品開発、および国内外での販売を行っています。実績は官公庁や電力会社、そして鉄道分野など幅広いです。自治体向けには上水道や浄水所の各種処理装置の提供も行っているほか、昨今では韓国向けに太陽光発電向けのシステム製品の供給も行っています。

産業システム事業では、製造業やIT業界などの一般産業で使用される製品システムに関連する事業で、受変電設備や自動車試験用システム、物流システムなどを提供するほか、繊維機械やエレベータなどの製品向けに、モーターやインバータなどの電動力応用製品の製造・販売を行っています。
最近では、三菱自動車様の電気自動車、「i-MiEV」の駆動シテムに利用いただいています。

エンジニアリング部門は、社会システム事業、産業システム事業で納品した製品のメンテナンスサービスです。

拠点については、本社は東京都品川区大崎、主力となる工場は静岡県・沼津市と群馬県・太田市、そして名古屋と甲府にあるほか、各拠点に関係会社、そしてこの東京・大崎には研究所があります。それぞれが分担して製品の研究や開発を行っています。

Ansysが試作回数や開発期間の短縮に貢献。
今後はさらなるフロントローディング開発の実現を目指す

御社にとって、シミュレーションとはどのような存在ですか?

渡辺

シミュレーションはかなり普及しています。当社の製品は大きなものが多いため、実機試験の際には事象を単純化するために、コンポーネントごとに分けて確認することが多いのですが、実験とシミュレーションを掛け合わせて評価しています。例えば素材の強度であればサンプルを切り出して、サンプルで十分に評価する。機械や部品などはAnsysを使って、シミュレーションで性能を把握するといったように。このように製品の完成度を高めていき、出荷前に最終的な製品試験を行ないます。

製品開発に、シミュレーションが深く関わっているのですね。

渡辺

そうですね。測定位置を決めるときも、まずはシミュレーションを利用して、注意すべき箇所を特定しています。

紙谷

弊社の各工場部門や、この研究所にも試験設備はあるのですが、シミュレーションの経験を積んできているので、試作はだいぶ減ってきています。

渡辺

製品開発の期間もかなり短縮されましたが、試作はもっと減らすべきだと考えています。特に最近は小型化やコストリダクションなど様々な要求があり、全てを実験でまかなおうとしたら、コストも時間も合いません。要求を満たしながら、タイムリーに製品を市場投入していくためにも、CAEでフロントローディングを実現することが一層重要になっています。

紙谷

そこで今年度からはトップダウンの指示で、全社的にCAEの利用推進が行われることになりました。この解析・制御センターは、そうした推進プロジェクトの中心的役割を担っており、各事業所の指導や技術移管などに積極的に取り組んでいます。

渡辺

従来は、例えば原子力機器のように、どうしても解析が必要な部署が個別に解析を依頼してくることが多かったのです。しかし、我々が把握しきれていない潜在的な解析ニーズは数多くあると考えています。そこで推進活動は、我々が個別の事業所に出向いて現場が抱えている課題をヒアリングし、解析・制御技術が役に立ちそうな題材がないか探すことから始めています。

導入の決め手は、優れた操作性と解析機能

Ansysの導入経緯についてお聞かせください。

渡辺

当社は1983年から旧SDRC社製の3次元CAEシステムを導入し、全社で活用してきました。当時のシステムはハードとソフトの変遷により変化してきましたが、構造解析と熱流体分野では2006年頃からAnsysに移行しました。

Ansysと従来使っていたCAEとの最大の違いは、Windows上でも十分なパフォーマンスを出せたことです。当時のCAEは、ホスト計算機やUNIXサーバ向けで、Windows上ではエミュレータ上で動くため、PCベースでは実用的なレベルではありませんでした。しかしAnsysの操作環境である「AnsysWorkbench」は、もともとWindows上で利用することを前提として設計されており、Windows上でもスムーズに動きました。また3次元CADインターフェースを、業界に先駆けて導入していたことも魅力でした。さらに、Ansysで弾塑性やクリープ解析を試したところ、他社のハイエンドのCAEと遜色のない結果が得られましたので、操作性と解析機能の双方に優れていたAnsysを導入した次第です。

現在は、CAD付属のCAEはお使いですか?

渡辺

工場などの開発・設計では単純なものはCAD付属のCAE等で済ませ、比較的複雑なものにAnsysを利用しています。そのためAnsysでは比較的高度な解析をすることが多く、当社保有のライセンスもMultiphysicsが最も多いです。

Ansysを導入して良かったことは?

渡辺

いろいろありますが、1つは非線形解析が行えるようになったことです。別途、非線形解析用のCAEも導入したこともあるのですが、結局定着しませんでした。Ansys Workbenchがなかったら、非線形問題では苦労していたと思います。また耐震解析では、ビーム要素でも断面特性が詳細に模擬できる点が非常にいいですね。これにより、剛性や応力などもきちんと計算できます。

佐々木

当部門は解析の専任部隊なので、日々、設計部門からの依頼に対応しています。その際、結果を言葉で説明するのは難しいものですが、解析画像が一枚あるだけで、明確にイメージを伝えることができて便利です。また設計者にとっても、解析画像は問題のある箇所の特定や、解決策を検討するのに役立っています。

高橋

色々な連成解析ができる点が便利だと思います。担当は主に電気ですが、多くの場合、熱や構造との相互作用まで考慮する必要があります。その際、Ansysでは様々なオプションの中から、その製品に最も適した連成解析の方法を選択できるのがいいですね。

江尻

Ansys Workbench MechanicalのGUIは非常に解りやすいですね。私が解析を始めたのは2007年頃からで、それ以前は機械系の解析ソフトの知識はほとんどなかったのですが、すぐに操作を覚えることができました。ただ、流体解析のGUIは別なので、流体もWorkbench MechanicalのGUIに合わせてほしいと思います。

また熱流体解析では、いかに質の良いメッシュを作成するかが重要です。Ansys 13になって、メッシュ機能が非常に使いやすくなりました。ボディ毎にメッシュが作れるようになったため質の良いメッシュを作成しやすくなりました。これは嬉しかったです。

配電盤の耐震解析から風力発電まで。
多種多様なテーマでAnsysを活用。

具体的には、どんな解析をされているのですか?解析事例をお聞かせください。

佐々木

Ansysは様々な分野で活用されています。例えば自動車の試験装置である、4WDダイナモメーターの開発に、Ansysの構造解析を使っています。また、モーターでは、シャフトの解析やフレームの軽量化するための解析などでAnsysを使っているようです。私自身も、部品の振動時の強度確認などによく使います。

高橋

私は、高周波電磁界解析で、旧Ansoft製品のHFSSやQ3Dを使用しています。具体的には、インバータの解析で、内部のスイッチング素子が高周波を発生させますので、それによる周囲の影響などを評価しています。

江尻

目新しいものでは、メガソーラーシステムの開発があります。太陽光パネルの架台の設計では、風の影響を考慮する必要がありますので、Fluentを使って解析しています。また、風力発電の発電機は、運転中にコイルや永久磁石に熱が発生します。その部分を効率的に冷却するために、シミュレーションを活用しています。

疲労問題は、環境にやさしいものづくりを行なう上で
特に重要なテーマ

具体的な解析事例をご紹介いただけますか。

佐々木

図1は配電盤の振動解析です。通常はビームモデルで済ませるところを3次元で解析しました。ビームモデルで解析すれば数十秒で済む解析なのですが、3次元の場合はまる1〜 2日かかります。しかし3次元化することで中の部品まで考慮することができるため、剛性や応力集中まで詳細に把握できます。

渡辺

一般的な規格はビームモデルを対象としています。ビームモデルを計算して、得られた結果が規定の数値以上、または以下なら規格上は合格とされます。しかし、ビームだけの解析では応力集中までは解りません。またボルトの穴の応力集中、しかもその取り付け部分を正確に評価するには、接触の考慮も必要です。これらを考えると、計算規模が大きくなっても3次元での解析が求められます。信頼性が特に厳しく求められる製品の場合メーカーとしては、ここまで配慮する必要もあると思います。

次に、図2は鉛フリーはんだの疲労解析事例です。近年、地球環境保護の観点から、はんだの鉛フリー化が進んでいます。しかし鉛フリーはんだは基板や電子部品とは線膨張係数が異なるため、使用中に界面にひずみが生じやすくなります。そこでAnsysでひずみ変化の解析を行い、得られた結果と素材の疲労試験結果をもとに疲労寿命を推定しました。(実際の設計では、バラツキを考慮した安定率を用いています。)

一般的に、疲労解析は難易度の高い解析分野だと言われていますが、何か工夫されていることはありますか?

渡辺

例えば繰り返し負荷を受ける場合は、それが高サイクル疲労(繰り返し応力が降伏応力を越えない場合)なのか、低サイクル疲労(降伏応力を越える場合)なのか判断する必要があります。他にも切欠きや溶接部などの形状の不連続性の影響、湿度・温度などの雰囲気の影響、さらに荷重の履歴など、疲労寿命を左右する要因は数多く存在します。疲労寿命を適切に予測するには、それらの総合的な影響をどのように考慮し、どの手法を使うべきか判断しなくてはなりません。疲労解析が難しいと言われるのはそのためです。

また金属の場合、材料に穴(欠陥)があいていると応力集中により寿命が短くなる性質があります。今はこの現象をシミュレーションするための最適な手法を研究しているところです。その結果、形状については弾塑性解析で繰り返し応力効果の入った応力・ひずみ曲線(構成方程式)を使うことにより、かなり寿命の現象が見えてくることが解ってきました。現在、Ansys等の様々なツールで調査しており、学会でも発表しています。

安全率をできるだけ適切なものにし、かつより良い製品をご提供する。これは資源を大切にしながらものづくりを行なうという、循環型社会における製造業のあり方を考えるときの根本的思想だと思います。その意味でも疲労寿命をシミュレーションで予測することは重要であり、今後はより多くの製品において採り入れていくべきだと考えています。

御社では現在、シミュレーションの導入促進活動が盛んとのことですが、技術教育はどのように行っていますか?

佐々木

操作方法については、基本的にはサイバネットのようなベンダーが主催するセミナーに参加してもらっています。当部門は勉強会などを実施するというより、各事業部の担当者に具体的な課題を持ってきてもらい、対処方法を指導しています。

高橋

以前、サイバネットにオンサイトセミナーに来てもらいましたが、その後利用者が増えた印象があります。

一層の機能強化や、外部ソルバー、ツールの組み込みなど
今後のAnsys Workbenchの進化に期待

では最後に、製品や当社に対する要望をお聞かせください。

江尻

今後、熱流体解析でもスクリプトを組むなどして、解析の自動化を進めたいと思っています。その際もメッシュの問題がネックになるので、良い対処方法があれば知りたいです。

高橋

Mechanical APDLの機能を、早くWorkbenchに移行させて欲しいです。Workbenchだけで全ての機能が使えるようになったら、利用する側としては非常に楽なので期待しています。

電磁界解析では、磁性の非線形性をいかにモデル化するかが課題になっています。サイバネットさんでもマルチスケール解析ツール(Multiscale.Sim)を開発していますが、磁性体や誘電体にも適用できるとありがたいです。Ansysは、様々な物理現象をモデル化できるのが利点ですが、材料物性が複雑になった場合に、モデリングに苦慮することがあります。

また、もし簡単にできるのなら、AnsysにないソルバーをWorkbenchに組み込めたらと思います。サイバネットさんでも音響解析ソフト(WAON)を組み込んでいますよね。これができると、従来使っていたソルバーをWorkbenchに組み込んで連成解析も可能になるでしょうから、メリットは大きいと思います。

現在、メッシュのスクリプティング機能も開発中だと聞いています。近い将来に搭載される見込みですので、どうぞご期待ください。
また、外部のソルバーをWorkbenchに組み込むことで、連成解析はもちろん、Workbenchのポスト処理機能がフル活用できる点も大きなメリットだと思います。お客様の間でも、こうしたカスタマイズのニーズをお持ちの方は多いのではないでしょうか。Workbench自体は、第三者がカスタマイズできるような仕組みで開発されていますので、今後はお客様がご自身でWorkbenchをカスタマイズできるよう、情報収集や資料の作成、セミナーの開催といった各種のサポート活動を、継続して行なっていく所存です。

高橋

真のフロントローディングを実現するには、物理現象の枠を超えたプラットフォームが必要なのではないでしょうか。
例えば形状を決める場合も、本来は応力や熱の問題だけでなく、コストやCO2の排出量なども考慮する必要があります。これらをシミュレーションと一緒に考慮できれば、さらに良い設計ができるはずです。そのためには、生産部門や材料データとのリンクが今以上に必要になるので、Ansys上でまとめて実施できたら便利だと思います。

Ansys Workbenchは、PLMツールとの連携や、MS Excelとのリンク機能など、外部ツールとの連携機能も充実を重ねています。今後はこうした機能を活用することで、渡辺様が期待されるようなソリューションが可能になるかもしれません。情報提供は積極的に行っていきますので、どうぞご注目ください。

株式会社明電舎紙谷様、渡辺様、江尻様、佐々木様、高橋様には、お忙しいところインタビューにご協力いただきまして誠にありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます。

図1 耐震指針に適合した配電盤の開発

概要

三次元CADデータを直接利用した高精度なモデルで耐震解析を行い、新しい耐震設計指針に適合した、剛性の高い配電盤の開発を行った。



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図2 有限要素法による鉛フリーはんだの寿命解析

概要

地球環境保護を目的に、はんだの材料はすず(Sn)と鉛(Pb)の合金から、鉛を含有しない鉛フリーはんだへと置き換わっている。鉛フリーはんだは基板および電子部品と線膨張係数が異なるため、使用中の電気温度により界面にひずみが発生する。そのため、十分な冷却が行なわれない場合には、はんだ部にひずみが繰返されることから、金属疲労が発生することが考えられる。そこで、はんだ材料の特性試験、つまり非弾性有限要素法を用いたひずみ変化の解析を行い、最後に素材の疲労試験結果から、ひずみ変化と疲労寿命を推定する技術について報告する。



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「CAEのあるものづくりVol.15 2011」に掲載

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