[神戸大学]目指すは臨床医療への適用。
頚椎症の治療と人工半月板開発にANSYSを活用。

神戸大学 大学院自然科学研究科 集合写真神戸大学は「知の生命体としての大学」を目指して「異分野との交流」を重視し、 教育・研究交流に加え、社会貢献のために産学官民連携を積極的に推進されています。
そのなかで工学部は1921年に設立された神戸高等工業学校を母体として、1949年(昭和24年)に発足しました。高度な専門的知識と幅広い見識をもった技術者を養成すると共に、他大学や、民間との共同研究、受託研究も実施しており、研究成果を社会に還元し、役立てる努力も行なっています。

今回お話を伺ったのは、工学部機械工学科の松田光正助教授と研究室の皆様です。バイオメカニクスの分野で医学部整形学科と共同研究をしながら、膝や関節の半月板や靭帯の研究をされています。
以後皆様の敬称は略させていただきます。
(写真左から神戸大学 大学院自然科学研究科 機械ダイナミックス研究室 山根雅行様、松田光正 講師、森本康之様)

学部・研究室・講座の研究内容についてご紹介ください。

松田: 我々は工学部機械工学科に所属しています。機械工学科では3つの、材料系・熱流体系・設計系の三つに大講座で分かれています。我々は設計関係の一つの講座で、5名の教職員、学生は30人です。

ANSYSを利用されている方は何人くらいですか?

森本: 頻繁に使っているのは僕と山根君で、あとは簡単な機械部品の設計などに、3、4人ほど使っています。

授業でも利用されているのでしょうか?

松田: 教育用のANSYSがCAD室に、10セットくらい入っていて、機械工学実験の一環で使っています。学生は、三年生の実験で必ず触るようになっています。1、2年の製図の授業でも使うことがあり、ANSYSに全員馴染んでいるのは確かです。

現在注目されているバイオメカニクスについてご紹介いただけますか?

松田: バイオメカニクスとは、スポーツや身体運動における「動き」や「力」に関する研究で、我々は神戸大学の医学部整形外科の教室と共同で研究をしています。バイオメカニクスは1960年代の終わり頃に宇宙開発に携わっていた機械・電機・航空の研究者が、新しい研究対象を求めてバイオメカニクスに向かったのがきっかけです。私の先生も元々は航空工学の研究をされていて、バイオメカニクスに転向されました。

ANSYS製品を利用されるきっかけはなんだったのでしょうか?

今はANSYS Universityを使っているんですが、この研究室では、振動やダイナミクスの研究のために以前からANSYSを使われていて、私がこの研究室に来た3年前には、既にANSYSがありました。
私は整形外科と一緒に研究して医療に利用したいと考えていたので、有限要素法コードを自分で作る必要はなく、市販のコードを使って解析をして、結果を応用面で利用しようと思ったのがきっかけです。

ANSYSはどのように利用されていますか?

接触解析と大変形解析が中心で、その機能についてANSYSは生体の分野で使いやすいと思います。接触解析が出来るのは重要です。というのも関節や脊髄は骨と軟骨でお互いに接触して動きます。例えば、骨が脊髄を押して圧迫されるような解析です。人工関節の開発とか、膝関節に障害が起こるのを動力学的に解明するとか、新しい人工軟骨の開発には接触解析が避けられません。そのためにANSYSを利用しています。

具体的にはどのような解析内容になるのでしょうか。研究内容を教えていただけますか。

山根: 研究では、頚椎症椎間板ヘルニアと後縦靭帯骨化症を扱っています。後縦靭帯というのは、首の後側の出っ張った部分の中にある脊髄を押さえている靭帯です。脊髄の間には椎間板があり、それがゴムのように柔軟性を持って自由に動いて、首を前後左右に動かすことが出来るんです。その椎間板がそれぞれ離れてしまわないよう、靭帯が接続しているのですが、それが骨化し脊髄の方へ出っ張ってきて靭帯が圧迫される症状です。
手術のやり方は様々ありますが、どれがいちばん有効かははっきりしていません。いちばん有効であると言われているのが脊椎管拡大術というものです。骨に溝を掘り、骨を開くとスペースが出来るので、脊髄への圧迫が軽減できます。

ANSYSはこの中でどのように利用されているのでしょうか。

山根: まず、骨化した靭帯が脊髄に圧迫を与えた時にどれだけの応力分布があるのかを計算し、それから手術した後にどのくらい変化がおこるのか、分布がどのくらい変わるかを比較しています。
手術前・手術後

形状自身も非常に複雑ですし、神経根までモデル化されていると根っこのところだけメッシュが相当つぶれてしまいそうですし、解析規模も大きくなるのではないでしょうか?

松田: そうなんです。ですので、脊髄の神経根を外して、脊髄だけの物を作って解析をしています。神経根もモデル化するとそこのところに手間を取られてしまって見たいところが見られませんから。
山根: メッシュ形状が悪くなると言うことで、神経根のあるなしで結果がどのように変わるか調べたのですが、神経根の有り無しで特に変わりはなくて、いちばんの問題になっていた神経根を取り除いて解析を進めています。
もともと脊髄と言うのはちょっと湾曲している状態なんですが、今までは、神経根があって円柱型にせざるを得なかったのですが、神経根がなくなったために脊髄の形状を複雑化しています。人の首の動きにあわせて、脊髄の湾曲しますので、前湾型、後湾型、ストレート型に形状を分けて解析が出来るのではないかと思ってレントゲン写真から座標値を図って作り、モデル化して解析しています。
神経根なし
神経根なし
神経根あり
神経根あり
脊髄歪曲モデル
脊髄歪曲モデル
 

解析結果では手術の前と後で、後のほうが軽減されているそうですが、実際との比較や妥当であるかという判断があるのでしょうか。

山根: そうですね。それがいちばん難しいところなのですが、評価をどうすべきかと言うのはまだわからない状態です。
松田: 今は簡単なモデルですが、実際の患者さんのデータで手術前と手術後のデータを取って比較したいと考えています。しかし、まだそこまでは到達していなくて、まずは解析の流れを確立しようと言う状態です。
去年AI*Environmentを購入しましたので、CTデータをインポートして利用できるようにして、その方向に進んでいきたいと考えています。実際の事例で、負荷がかかっている状態で応力やひずみ解析をし、その結果と、患者さんに痛い、しびれている、感覚がないなどの症状が出ているのかを調べ、そのあと、手術後の解析をして症状がどういう変化をするのか照合すれば、実験との検証が出来るのではないかな、と考えています。ただ、解析手法などでまだ課題があって、なかなか進んでいない状態です。

物性値も測定するのが難しいのではないでしょうか。

松田: そうですね、生体材料は常に。人間の脳の物性は測れませんので、牛の脳の物性を測ろうとしても特にBSE問題が出てからなかなか手に入らないんです。やはり文献から取ってくるしかないですね。

こういった物性値のわからないものについては、物性値の値を振りながら臨床との整合性を取っていくのも一つのやり方ですね。

そうですね。臨床にぴたりと合う解析が出来れば実際に使えるので、お医者さんの立場からすると、物性値は整合性が取れればいいと言う感じです。実際に臨床の方に合うデータを出せるようなシミュレーションがあればいいとおっしゃると思います。

先に結果があって入力データが未知、と言う状況ですので、例えば最適化のような機能によって適当な物性値を振って結果に合うのを探して行くような手もあるかと思います。

次に、森本様の研究内容をお話いただけますか。

森本: こちらは有限要素法を用いた人工半月板の研究です。膝関節の上が大腿骨、下が脛骨で、その間に半月板があり、少し柔らかい材質です。これがあることによって膝関節の加重を分散させたり、衝撃を吸収したり、潤滑を高める機能を持っています。
半月板はスポーツでの損傷が多く、損傷がひどい場合は全て取り除く手術が行われます。そうすると大腿骨と脛骨が直接触れ合うことこで、変形して膝関節症の原因となります。そのために人工的な代替物で半月板が作れないかと言うことで、人工半月板開発を目的に研究をしています。原料はPVA:ポリビニールアルコールと言う素材を用いて、人工半月板が出来ないか検討しています。この素材は、既に生体実験に用いられ、ある程度軟骨の損傷を抑えると言う結果も出ていますので、将来性のある材料です。
研究ではモデルを4つ作って比較しています。一つは半月板を無くした切除モデル、次は生体半月板として正常な人間の膝に入っているモデル、PVAのみで作った人工半月板のモデル、繊維を入れてPVAを強化したReinforced人工半月板で比較して行こうと考えています。

モデルの作り方はどうされているのでしょうか?

森本: CTや解剖図から座標値を抽出して、ANSYS上で座標値を読み込ませて、通常のソリッドモデリング法で作成しています。座標値の抽出は全て手動で、縦方向に切った画像データから、骨表面の座標値を取ってANSYSに代入しています。半月板については軟組織のためCTにうつらず、文献の解剖図から座標値を抽出し、CTの骨にあう大きさに定数倍しています。

すごいポイント数だと思うのですが、大変ではないですか?

森本: 一日あればなんとか終わります。入力はテキストデータで一括で読み込んでいるので、それを順番につなげて行きます。ラインをつなげるのも、APDLを使ってポイント数が何点であってもつながるようにプログラムを組んでいます。APDLを使えば座標値を変更してモデルを作り直せるので時間を短縮できます。
画像
大腿骨側の軟骨と半月板と頸骨側の軟骨をモデル化
大腿骨側の軟骨と
半月板と頸骨側の
軟骨をモデル化
有限要素モデル全体図
有限要素モデル全体図
半月板とHornAttachmentの有限要素モデル
半月板とHornAttachmentの
有限要素モデル
森本: 半月板はコラーゲン線維が半月の形状に沿って延びていますので、大きな異方性を有しています。私たちは等方性材料に異方性を持たせた半月板を作ろうとして、一つ一つに対して要素座標系を設定しています。接触はこのように大腿骨側の軟骨と、脛骨側の軟骨について接触を定義しています。

接触の領域についてはAPDLで設定しているのですか?

出来るだけ計算時間を短縮したいので、予め接触しないとわかっている領域ははずして、座標系でその領域を決めています。境界条件として、大腿骨側軟骨を下げていくと言う形で強制変位を与えて解析を行っています。
結果評価ですが、解析結果が生体の半月板とどのくらいあっているのかを評価しています。左上の図4-1-1ですが、これは半月板の中にワイヤーと通してレントゲンで撮影してその変形量を調べて行こうと言う実験です。
解析結果と比べてみますと定性的には圧縮ひずみの強弱の位置、荷重の増加に伴う圧縮量の増加も合うのですが定量的には3-4倍違ってしまいます。実際、半月板は内側で楔のようになって体積がなくなるはずなんですけど、体積がない有限要素は存在しないのでどうしても体積を与えなくてはいけないんですが、その分の影響もあって半月板の変形量が大きくなっているのではないかと考えています。人工半月板を入れる目的が、関節軟骨の磨り減りを抑えることなので、関節軟骨の応力や、接触圧を見て比較しようと考えています。
半月板のレントゲンとひずみ領域
半月板のレントゲンとひずみ領域
接触トータル力200N時
接触トータル力200N時
解析結果表示断面位置
解析結果表示断面位置
接触トータル力500N時の生体半月板の相当ひずみ
接触トータル力500N時の
生体半月板の相当ひずみ

人工半月板は、例えばバレーボールやバスケットボールなど良くジャンプをするスポーツで半月板の損傷と言うのがあると思うんですけど、そういった選手に対して人工半月板を入れた時にまた同じように動けるもの、と言うようにお考えですか?

森本: わかりません。まだ動物実験していると言うのを論文で見たのも一件だけでまだまだ研究段階です。
松田: まずは普通の生活が出来るところですね。先程も申し上げたように、無いと変形性膝関節症になりますので、まずはその代わりになればと考えています。人工膝関節と言うのはありますが、なかなかバスケットとかをするのは難しいんじゃないでしょうか。膝関節とか股関節は人間の体重の5倍とか10倍といった力がかかるんです。おそらく指の関節とか肩とか普段の生活で荷重がかからない関節で実用化されるのが早いかと思います。膝とももの股関節の所は一番最後ではないかと考えています。

工学部・医学部との連携についてお話いただけますか?

松田: 医学部整形学科と共同で研究していますが、臨床でこういうことがあったんだけど、と向こうから問題を持ちかけられ、我々が意見を出します。我々は工学部な問題を考えますが、医学部の先生はどう使えるのかというのがメインですので、常に意見の差はあります。

結果としてはわかるけども、どう使っていけるのかというのを聞かれるわけですね。

松田: そうですね。工学部的に意味があっても医学部的に意味がなかったり、逆のこともあります。我々にとって簡単な事を医学部の先生がとても知りたいとか、医学部の先生の知りたいことが我々にとって難しいことだったり、といろいろ差があるので、その辺りはミーティングをして、すり合わせをしています。

やはり生体に関わる解析と言うのは難しいことが多いのでしょうか。

そうですね、例えば筋肉の引っ張りについて、色んな要素が合って筋肉がどう動いていているのかと言うことでも、現実は我々が解析として明らかにするのが難しいですよね。数学モデルを解いているだけとなってしまうので、そこが我々が限界を感じているところです。本当に全てを見ようと思ったらセンサーのようなマーカーをつけてレントゲンやCTとかで全てチェックするしかないですから。

解析で計算しようとすると大きな粗いモデルで計算してみて、見たいところだけ切り出して正確な物性値を測って、前の大きなモデルで計算した変異解をミクロなモデルの強制変位量をあてがって計算するということになるんでしょうね。いちからやっているとあまりにも解析変化も出るが大きすぎて出来ないですね。

先生: 例えば筋肉の繊維も本当は一つずつ全て定義すればいいのですが、そんなのは到底出来ません。靭帯でも、関節の中では一本で表現してますけど、人体の繊維は斜めに走っています。膝の角度によって靭帯の働いている部位が違うんです。全ての靭帯がゴムで引っ張られてるように伸びているわけではないんです。一部が引っ張られて、ある時はこっちが引っ張られて、と言うような事をモデルにしようとすると難しいんです。本当の動きを出そうとするとそこが出ないとダメなんですね。まだまだ研究課題はいっぱいあります。

最後に、今後のANSYSの方向性やこういう機能がほしいというご要望はありますか?

森本: 超弾性体の異法性材料があれば、と思います。

これはバージョン10.0から入ってきます。異方性のデータが必要なんですが、それを入れていただくことによって利用が可能です。

山根: あとは三次元モデルでのリメッシュですね。

これは世界中から要望がありまして、実際ANSYS社も計画を立てています。バージョン9.0では2次元で超弾性材料のみですが、10.0からは2次元で塑性モデルでも対応しています。3次元モデルについては、いつになるかと言うのはまだはっきりとは言えないところです。3次元モデルでのリメッシュの難しいところはメッシュの成分です。リメッシュの場合はいいメッシュを切らないと意味がないんですが、例えば三次元のモデルである部分が落ち込んでいる、くぼんでいるような形状で、前回よりもいいメッシュが切れるかと言うのが問題です。そこの機能アップとともに入ってくると思われます。

森本: 出来ればANSYSのヘルプを全て日本語にしてもらいたいです。

こちらも計画中です。特に熱解析や流体の部分が全て英語ですので、サイバネットシステムに日本語化のチームがあって、日本語化出来ていないところを日本語化するにはどのくらいかかるのか計算して、計画もしています。すぐにと言うわけではないですが、日本語化は進めている状態です。
ユーザの皆様から伺うご要望については、機能面で足りないものは開発元に要望として提出し、弊社でのサービスについても、出来る限り迅速に対応していきたいと考えております。貴重なご意見をありがとうございました。

森本康之様
森本康之様
松田光正 講師
松田光正 講師
山根雅行様
山根雅行様

「CAEのあるものづくり2006,Vol.4」に掲載

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