[株式会社デンソー]「シミュレーションファースト活動」を推進。
DesignSpace は設計者に非常に好評で、CAE の利用が急増

今回のインタビューにご協力頂きましたお客様は株式会社デンソーの皆川一二様・犬塚幸夫様・小西正晃様・黒岩一成様(写真)です。株式会社デンソー様は1949 年に創立され、”変化を先取りした大胆な企業行動”をモットーに自動車関連部品としてヒーター,エアコン,燃料噴射ポンプなどの新商品開発と事業化を早くから手がけ、IC の社内生産といった業界に先駆けた企業行動もあって、今や国内にとどまらず世界に活動の場を広げるまでに至っております。そして現在では「可能性のドアを開くデンソー」を企業方針として、「マイクロマシン」等の最先端テクノロジーの開発をはじめ様々な新規事業を手がけられています。

(以後、株式会社デンソーの皆様の敬称は略させていただきます。)

皆川 一二 様
皆川 一二 様
犬塚 幸夫 様
犬塚 幸夫 様
小西 正晃 様
小西 正晃 様
黒岩 一成 様
黒岩 一成 様

シミュレーション普及のための「シミュレーションファースト活動」を推進。
DesignSpace は設計者に非常に好評で、CAE の利用が急増

それでは最初に株式会社デンソー様の事業内容や取扱製品などをお聞かせ下さい。

皆川当社では現在、事業グループ制を取っておりまして、私どもはその中のパワトレイン機器事業グループのエンジン機器事業部、エンジン機器技術2 部に所属し、電子制御式燃料噴射システム用燃料供給装置の設計開発を担当しています。会社の事業全体をお話しますと、自動車の中で電気が流れているもの、動作しているものに我が社の取り扱い製品が多く採用されています。エアコン,ワイパー,エンジンスターター,パワーウィンドウなどは代表的なものですね。それから自動車部品以外では携帯電話、ナビゲーションシステム、それに環境機器として家庭用ゴミ処理機や浄水器なども手がけています。

非常に多くの事業を展開されていますが、その中で現在特に力を入れられている事業や好調な製品などを教えていただけますか?

皆川自動車関連では「人と地球にやさしい環境づくり」を目指して、環境への取り組みや運転時の快適性の追求が、製品設計開発上の重要ポイントとなっています。例えば、燃費効率向上のために、インジェクション部における燃料噴霧の粒径をいかに細かくして燃焼効率向上と燃焼損失の低減を図るかといった直噴型燃料インジェクション技術等が挙げられます。快適性ではエアコンの問題があります。同乗している人が各々快適と感じる温度に差があるのですが、この温度を車内の場所によって制御出来るデュアルエアコンの技術があります。また、環境問題にあたってディーゼルエンジンの悪影響について指摘されていますが、これはすすや窒素酸化物という有害物質が排出されるから問題なのです。現在は既にコモンレール技術によって有害物質の排出を抑えるディーゼルエンジンが開発されています。

そのような新しい技術について部署間での技術交流・情報共有などは活発に行われているのでしょうか?

皆川数多くの、情報交換会や推進会があります。例えば、解析については情報企画部が全社における解析技術の取りまとめを実施しており、流れ,磁場,構造など様々な解析技術について情報企画部を中心としたプロジェクト活動を実施して技術交流を図り、その結果は社内ネットワークによって情報共有を行っています。

設計開発部門の現場における解析ツールの位置付けはいかがですか?

皆川解析技術全体としては、「数値シミュレーション技術」と「実挙動の評価技術」を示す「バーチャルファクトリー」と「アクチャルファクトリー」があり、その両方に取り組むのがキーワードです。どこの企業も後者の技術については多くのノウハウを持っておられると思うのですが、今は「バーチャルファクトリーを征する企業が21 世紀を征する」とまで言われている時代です。ですから「バーチャルファクトリー」技術を設計の現場で定着させることが急務です。ただそれだけでなく、その裏付けのために「アクチャルファクトリー」の技術も必要であるわけです。一方を推進するのではなく、その両方が互いに補完し合わなければならないという基本的な考え方を持っています。それから当部署における「CAE の適用」の考え方につきまして図- 1 に示していますが「技術的理論の状況」と「解析ツールの有無」によって解析専任者と設計者の位置づけを定義しています。設計者に対しては「確立された理論」があり、「確実に結果が得られる汎用ツール」があるところにおいて「CAE の普及」を目指しています。

図1

それでは「ANSYS 」及び「DesignSpace 」の導入経緯についてお話頂けますか?

犬塚当部署では全社のホスト端末とは別に1992 年からEWS を導入し、流れ解析を手始めに、線形構造・振動・熱応力解析用などのCAE ツールを導入して来ました。ANSYS は1995 年に非線形構造・振動・熱応力の解析や将来的に連成解析が必要になることを見越して導入しました。その後、ANSYS を設計者レベルにまで普及させようとしていたのですが、ANSYS では設計者には少々難しいということで、その後リリースされたDesignSpace を設計者向けに導入し、ANSYS は解析専任者向けに使用しているという状況です。DesignSpace は設計者に非常に好評で、利用する設計者が急増しています。我々はこのDesignSpaceをフレンドリーシミュレータと呼んでおり、広く設計者に親しまれるツールとして位置づけています。

DesignSpace の導入時期はいつ頃のことですか?

犬塚1999 年の10 月に導入しました。うちの全設計者に対してDesignSpace の教育を実施し、そのうちの30 人が実際の業務で利用している状況です。
皆川うちの部署における「CAE 活用活動」を図- 2 に示しますが、1995 年に各種CAE ツールを導入後、設計者に対してこれらのツールを普及するための活動を続けてきました。そしてDesignSpace を導入した1999 年に「シミュレーションファースト活動」としてとにかく試作品をつくる前に必ずシミュレーションを実施させる運動に取り組み、解析実施件数を月間30 件にまで伸ばすことが出来ました。これは全体の解析件数ですから、DesignSpace,ANSYS 以外のCAE ツールも含まれています。それでも10 件程度はDesignSpace による解析ですね。

図2

「シミュレーションファースト活動」を実施するにあたって社内での弊害のようなものはありましたか?

小西計算はあくまでも計算で実験に比べればあてにならない、という従来からの先入観もあって、それを払拭するのは大変でした。確かに計算は、与える条件次第で、どうにでもなる面がありますからね。しかし、適切な条件を設定すれば、実現象に即した結果が得られる。そのようにして、実際にシミュレーションによる実績を積み上げて、その成果を見てもらいながら少しづつ広めて来たということで本当に地道な1 年間であったと思います。

ご苦労されたようですがその成果もあってこの時期にCAE 実施件数がぐんと伸びていますね。

小西一度その有効性を体験すれば、需要はどんどん広がっていきます。今では製品設計の審議をする会議においてシミュレーション実施の有無が会議の進行に影響を与えるまでに浸透してきています。
皆川それに、実験が困難な部分についてもシミュレーションを用いれば解析できますので、それもシミュレーション普及の追い風になりました。
小西我々の部署で扱う製品は本当に小さなものが多いのでシミュレーションでしか解析できない部分が多いのです。ここにある燃料インジェクタ(写真- 1,インジェクタ構造解析応力コンター図)も長さ10cm 未満のものでその加工精度はコンマ何ミクロンというオーダーを要求されます。そしてその強度検証におけるコンマ何ミクロンオーダーでの変形量の評価にひずみゲージを貼った実験実証というのは難しいのです。

インジェクタ1

ANSYSを使用した インジェクタ 圧入解析

ANSYSを使用した インジェクタ コイル樹脂モールドモールド部の熱応力解析

シミュレーション結果の裏付けのために結果の精度が要求されることがあると思うのですが、その時に必要な解析ノウハウというのは解析専任者で管理され、設計者に反映されているのでしょうか?

小西確かにそのようなノウハウがあります。応力を比較するときのメッシュサイズの制御指針などもそうですが、今後設計者が使う上ではそのようなノウハウを必要とするかたちを改善しなければいけないと思います。
犬塚従来から構造解析ではその応力集中部においてメッシュの大きさで応力値が変わります。それは当然なのですが実験の際に測定している状況に合わせてシミュレーション結果も表示出来ればもっと実験結果とつきあわせて評価が出来ますよね。DesignSpace ではアダプティブメッシュ機能がありますが、応力集中問題に対しては有効でないためにそのあたりの改善が望まれますね。
小西先ほど皆川が申し上げましたようなフレンドリーシミュレータとして設計者が電卓感覚で利用するにはそのあたりの技術がネックになってくると思われます。

CAE 普及のための推進者側にはやはり影の苦労があると言うのが実情であるわけですね。

黒岩実際に設計者がDesignSpace を使って問題となったものに、応力集中部分の形状の違いによる評価応力値の差というものがありました。応力集中部の角をそのまま残した場合とフィレットを挿入した場合の解析において、フィレットのある方が評価応力が高かったのです。我々解析専任者であれば形状変更による該当部分のメッシュサイズの差が影響していることが推測出来るのですが、設計者にはそれが判断出来なかったわけですね。

現状のDesignSpace では本来重要な部分が簡略化されてしまう場合がありますが、このことは今後のDesignSpace 開発に考慮して欲しい内容になりますね。ところで、そういう微小な形状を有する解析対象品は多いのですか?

小西フューエルポンプモジュールなどは先ほどの燃料インジェクタと違って樹脂成型品で、複数部品のアセンブリモデルなのでかなり細かな形状を持っています。これがその実物(写真- 2 )で、それをDesignSpace で固有値解析した結果がこちら(ポンプモジュール固有値解析コンター図)です。

ポンプモジュール

DesignSpaceを使用したポンプモジュール固有値解析
犬塚これくらい複雑なモデルになるとANSYS でモデル化するのは難しいですね。でもDesignSpace であればいとも簡単に解いてしまうのですから設計者にとっては非常に便利で、CAE 普及にも効果があったと思います。
皆川CAE 普及以外にも、DesignSpace は間接的に3 次元CAD の導入推進にも効果的だったのです。我々は立場上、設計現場において3 次元CAD の導入を推進しなければならないのですが、3 次元CAD の形状があればこんなに簡単に解析出来るということで3 次元CAD 導入の手助けになっていることがあります。

他社さんでは3 次元CAD の推進が思うように進まないという話をよく聞きますので、デンソーさんの導入事例は非常に興味深い話ですね。

犬塚我が社では製品の特徴によってCAE 解析を自動化するCAE ワークベンチというデンソーオリジナルのシステムがあり、情報企画部で取りまとめています。このシステムでは製品固有の解析を精度よく自動化するために、様々なCAE ツールを組み合わせた構成を対象製品毎に提供するようになっています。それも有効なシステムですが、同時に製品開発段階においては様々な寸法を微調整して解析する必要があるために、DesignSpace のような3 次元CAD と連動して簡単で確実に解析出来るCAE ツールは開発工程において非常に効果的なのです。

DesignSpace の導入は成功だったと言えるわけですね。ところでDesignSpace を選択された理由は何でしょうか?

犬塚設計者がDesignSpace を使い、そのモデルデータをANSYS に渡せば解析専任者もより高度な非線形問題に着手できるという状況も考えて、ANSYSとデータ互換があるDesignSpace にしたことが理由の一つです。それからとにかく3 次元CAD からの形状の取り込みに失敗が無いということですね。機能評価の際には他の設計者向け解析システムを同時に評価しましたが、DesignSpace のように確実に取り込めませんでした。それから当社では3 次元CAD がUG ということもあり、ミッドレンジ3 次元CAD に直接リンクされることだけを考えた他社の商品よりも、Parasolid ファイルでも取り込みが可能なDesignSpace が最適だったのです。

では導入されて以来、実際に使われている30 名の設計者の方々が持つDesignSpace に対する評判というのはいかがですか?

犬塚設計者の評判は非常にいいです。
皆川解析技術に対して素人でも使えるところがいいですね。
犬塚ただあまりに簡単に解析が出来てしまうので、どんどん大規模な問題に取り組んでいく傾向にあり、ハードウェアやOS の限界までに至っている状況があることです。
黒岩設計者は3 次元CAD でモデルを構築する際に解析上必要ないような細かな形状まで再現してしまいます。それをDesignSpace でそのままメッシュ生成しようとするので膨大な規模の解析になってしまうのです。DesignSpace ではアセンブリモデルの部品毎にメッシュの粗密性を制御出来ますが、現状のハードウェアで解析可能な規模にまでメッシュを制御するのにも試行錯誤が必要で、そこに時間がかかりすぎることがあるのです。

DesignSpace ではアセンブリパーツ毎に界面上でのメッシュの整合性を取らずメッシュ出来ることが強みではあるのですが、逆に作業が煩雑になることもあるわけですね。ところでもう一つのANSYS について少しお話をお伺いしたいと思います。解析専任者向けで、主に構造・振動・熱応力の解析に使われているとのことですが。

犬塚以前から大型コンピュータ上で解析ツールを使っていたのですが、キャラクタ端末を使って3 元CAD の形状に対する構造非線形問題に取り組むなど到底考えられない世界でした。それが1995 年にEWS の導入とともに3 次元CAD と流れ解析や線形構造解析ツールを導入して手元で簡単に使えるようになりました。その環境においてさらに非線形問題を解けるものが必要になってANSYS を導入したわけです。

ANSYS の構造非線形機能について何かご意見はありませんか?

犬塚当初、構造の3 次元接触問題に対してANSYS を使っていましたが、当時のANSYSでは面接触要素が膨大な数になり、FEM モデルが出来た後でのグラフィックスプロット表示にかなり時間がかかっていたように思います。それが、ANSYS 5.5 で新たに追加された面−面接触要素によって随分使いやすくなったと思います。
小西ANSYS を導入当時、燃料インジェクタの先端に被せる樹脂スリーブの接触問題でANSYS を使ったのですが、接触判定が上手く出来なかったり、解が収束しなかったりということがありました。

ANSYS 5.5 で搭載された面−面接触要素は以前の点−面接触要素に比べると飛躍的に進歩した技術を採用しているので、是非検証してみて下さい。この面−面接触要素は、曲面上でのラージスライディング現象を正確に解けるように考慮されています。そのような技術も解析ソフトよっては収束性に問題があったり、接触判定が上手くいかないこともあるのですが、ANSYS は定期的なバージョンアップ時にそのような問題点の具体的な改良・改善計画がすぐに打ち出されるのです。さらにANSYS 5.6 では接触問題の収束性改善のために接触剛性値の自動調整機能が導入されてきています。その他ANSYS に対する要望事項などありますか?

犬塚GUI カスタマイズ環境ももっとわかりやすく簡単に出来るといいですね。それから現在のツールバーでもボタンの配置を自由に設定出来れ ばアイコン感覚で使いやすいと思います。

ANSYS 社もWEB ベーステクノロジーに随分と興味を持って取り組んでいますので将来的にはHTML やJava Script を使ったGUI 環境を取り入れる可能性が高いと思います。そうなると特殊なGUI 開発環境ではなく一般的なテクノロジーを使ったGUI 開発環境を提供出来るかもしれません。

小西ANSYS 用にはConnection for Parasolid を使っているのですが、こちらはDeignSpace に比べると取り込み時に問題が多いため、そこを是非とも改善して欲しいです。
犬塚面−面接触要素ですが、「接触部分の自動判定と設定」「確実な解の収束」というところに力をいれて欲しいと思います。DesignSpace については構造圧入問題のような簡単な非線形接触問題や周波数応答解析機能の追加、パスプロット図のサポート、材料データベースのグループ内での共有化とセキュリティマネジメント強化といったことを希望しています。後、サイバネットさんに対してはマニュアル類の完全日本語化とホームページ上での具体的解析事例を入力データ付きで公開して頂ければと思います。

貴重なご意見ありがとうございます。我々も出来る限り対応していきたいと思います。

株式会社デンソーの皆様には、お忙しい中インタビューの時間を作っていただき誠にありがとうございました。この場をお借りしお礼申し上げます。

「ANSYS Product News2000 Autumn」に掲載

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