[株式会社ブリヂストン]人命と財産を守る「免震ゴム」の開発とCAE


左から鮫島祐介様、室田伸夫様

今回のインタビューでは、株式会社ブリヂストン様にご協力いただきました。
タイヤ・ゴムメーカーとして世界トップクラスの実績を誇るブリヂストン様。1980年初期からは、長年に渡るタイヤ開発で培ってきた世界最先端の技術を生かし、業界に先駆けて免震ゴムの開発に着手されました。1995年の阪神・淡路大震災を契機に量産体制を整備、現在では国内シェア50%という実績をあげられています。また積極的な海外展開を進められており、2005年に正式発行された免震ゴムの国際規格(ISO22762)の策定時には、免震ゴム技術における世界のリーディングカンパニーとして原案作成段階から積極的に参画、多くの貢献を残されました。
本インタビューでは、免震ゴムの開発経緯と、ANSYSの利用についてお話をお伺いしました。

皆様の担当業務についてお聞かせください。

室田

免震開発部は、二つのユニットで構成されています。免震開発第1ユニットはビルや戸建用の免震・制震、免震開発第2ユニットは橋梁用の免震ゴムの開発をしています。私は第1ユニットでリーダーを務めています。

鮫島

私は免震ゴムの開発や設計を担当しています。具体的にはビル等で利用される積層ゴムの設計や、ユーザ様のフォローを行なっています。

免震ゴムについてご紹介ください。近年、非常に注目されているそうですね。

室田

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図1 免震ゴム

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図2 耐震構造と免震構造の違い
免震ゴムとは免震装置の一種で、薄いゴム層と鉄板を交互に積層し、加硫接着したものです(図1)。
近年、建築構造物の地震対策として免震工法が注目されています。従来の建物の場合は、地盤の上にしっかりと基礎を据えます。激しい地震の揺れは、頑丈な建物と基礎で持ちこたえるという発想です。しかし免震工法では、構造物の各柱下と基礎の間に免震ゴムのような免震装置を設置して、地震の際に建物へ伝わる力を低減させるのです。
積層ゴムは、水平方向にはゴム本来の低い剛性を示します。そのため構造物と基礎の間に挿入しておけば、地震の力をほとんど吸収してしまいます。上の建物は、あたかもゴムを介して宙に浮いているような状態になり、地震力はほとんど伝わりません(図2)。一方、鉛直方向には、鉄板の補強効果で高い剛性を示すため、長期にわたって構造物を支持していくこともできます。
ですから、免震ゴムは免震建物の心臓部と言えます。ゴムの良し悪しで、免震工法の出来が決まると言っても過言ではないでしょう。しかし鉄やコンクリートと違って、ゴムは建築では一般的な素材ではありませんから、これを扱える構造設計者は限られています。そういう意味でも、免震建物は非常に付加価値が高い建物と言えます。

これまでの開発経緯についてお聞かせください。

室田 ブリヂストンでは、国内では最も早く、1980年初期から免震ゴムの開発に取り組んできました。私は1989年から免震ゴムの開発に携わっていますが、当時は大手建設会社が実証観測を目的に自社の建物に取り入れるといった実験的な要素が強いものでした。
しかし、1994年にロサンゼルスで起きたノースリッジ地震や、翌年1995年の阪神・淡路大震災で免震建物の効果が実証されたことで免震対策の機運が高まりました。当社でも、そこから本格的に設計・開発・生産の体制が出来上がっていきました。
免震ゴムを導入することで、震度7の地震を震度3程度の揺れにまで軽減することができると言われています。最初は集合住宅から需要が増えていったのですが、病院や消防署など緊急時に仕事ができなければいけない施設への採用が進み、最近ではリスク対策を行なう企業からの需要も高まっています。

免震ゴムの耐久性は、どのように予測されるのですか?

室田

室田伸夫様
免震ゴムは、長期間にわたって性能を保証しなければいけない製品です。建物の使用期間は一般的に60年間とされていますが、60年間も使用された免震ゴムはまだ存在しません。実験評価を積み重ねて、耐久性を評価・予測していく必要があります。
本来、ゴムは非常に複雑な過程を経て劣化していくのですが、それをごく簡単なモデルに置き換えると、劣化の進行速度は温度に依存すると考えられます。例えば常温(20°C)の環境下での60年後の劣化状態なら、80°Cの環境下での半年後の状態に相当するわけです。このように、高温化で短期間の劣化実験で予測しています。
最初に立てられた免震建物が築20年強になるのですが、20年経った免震ゴムを取り出して調査したところ概ね想定通りでした。免震ゴムの体積はかなり大きいので、表面はわずかに酸化していても、中はほとんど初期状態のままでした。
また、免震ゴムについては大量の実験データが蓄積されています。免震工法の出始めの頃は、建設会社が自社の寮や社宅に積極的に免震ゴムを採用していました。その後も、定期的に免震ゴムを取り出して劣化具合を調査したり、自由振動実験を行なって確認するなど、トレーサビリティが非常にしっかりしているのです。そのお陰で、20年間の劣化の進行についてはかなり明確になりました。

免震ゴムの開発では、CAEはどう関わっているのですか?

室田 開発当初は、CAEを使って60年後の変形能力を予測したこともありましたが、その後は実験が主体でした。しかし、最近はCAEをもっと使おうという動きがあります。
鮫島 ブリヂストンでは、お客様の多様なニーズにお応えするために、あらゆる種類・サイズの免震ゴムのラインナップを用意しています。そのため、繁忙期には1年で100体近く試験体を作って実験することもあるのですが、試作品を1つ作るのも結構コストがかかります。また、今までは全てのデータを実験から採取していましたので、工数も膨大でした。
ある程度その妥当性が証明されれば、CAEを使うことで試作や実験の回数を減らすことができますし、実験ではなかなか難しい検証も行なうことができます。
室田 CAEを使うことで、実験が半分、あるいは1/3まで減るといいですね。また、ゴム内部の歪のように、実験では見ることができない部分を可視化できるのも利点の一つです。実験結果ときちんと整合が取れれば、その解析結果を材料開発にフィードバックすることも可能です。

2008年のANSYS Conferenceでは、免震ゴムの支承部分の解析事例を発表いただきましたが(図3)、これも、そうした新しい取り組みの一環ということですね。

鮫島 はい。通常、免震装置を採用する場合は、土台や建物などの躯体へボルトで接合させるのですが、この連結部の挙動について詳細を検討した事例は少ないことから、ANSYSによる数値解析を使って検討しました。この連結部の解析には、鋼材、ゴム、さらに躯体まで含める場合はコンクリートまで考慮する必要があるため、超弾性、弾塑性、そして接触問題を解析しました。
   

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免震構造を採用した場合、装置と躯体との連結はボルトによって行われる。しかしながら、免震装置に焦点を絞り連結部挙動の詳細を検討した事例は少ない。そこで、連結部挙動に着目した実験に加え、FEMを用いた数値解析による検討を行った。免震用積層ゴム支承は、鋼材、ゴム、およびコンクリート(躯体部まで考慮に入れた場合)かならなる複合構造である。これら複合構造を数値解析的に解こうとした場合、超弾性体(ゴム)、弾塑性体(鋼材)、および接触問題を取り扱うことになり、高度な解析技術が必要とされる。本報告では、解析モデルの構築に焦点を絞り、実験との比較を交えて免震積層ゴム支承連結部に着目した検討結果を示す。

図3 免震用積層ゴム接合部に発生する応力歪解析へのFEMの適用

解析で難しかったところは?

鮫島

鮫島祐介様
ゴムのモデル化です。非常に大きな変形を与えるので、いかに正確に、実験の状況を再現するかで苦労しました。入力しているゴムの物性値も、もっと色々なパラメータを扱いたいと思っています。
また、この解析の目的は、免震装置の解析モデルの構築方法を検証することにありました。実験結果とうまく整合が取れる解析モデルが構築できれば、それをコード化して他の事例にも展開させていくことができます。そのため別途、縮小試験体を作成して実験を行い、実験結果とANSYSの解析結果とを比較しながら検証を進めていきました。

実験結果と解析結果との整合性について、評価指標はありますか?

室田 定量的な指標はないですが、色々な領域に渡って合っているかどうかが大事ですね。特定の部分は、実験結果と解析結果が非常に合致していても、他の部分がまったく違うのでは使えません。それよりは、ある程度違いがあっても、傾向は一貫して同じ、という方が使いやすいです。
特にゴムの世界はそうなのかもしれませんが、あまり数値解析にだけ頼るのは危険だと考えています。

今後取り組まれたい解析は?

室田 もっと複雑なモデルを扱いたいですね。製品開発だけでなく、材料開発段階でも、シミュレーションを取り入れられるようになれば、すばらしいと思います。

ところで、ANSYSの導入経緯はどのようなものでしたか?

室田 1999年頃に、私ではなく生産技術の部隊が導入しました。他の製品も候補に挙がっていたのですが、価格と操作性の面でANSYSを選択したようです。また当時、社内用に解析のシステムを構築しており、サイバネットさんにANSYSのマクロ作成してもらうなどのサポートを受けていました。その後、このシステムに関数を加えて発展させていくことが決まり、ANSYS Mechanicalを導入しました。

その後実際に利用されてみて、ANSYSについてどう思われましたか?

鮫島 使い勝手はいいと思います。現在、ANSYSは4名で利用しているのですが、この部署に来た時は利用経験者が1人もいなかったので、技術セミナーを色々受講して勉強しました。サポートも迅速に対応してくれて、色々教えてくれるので助かっています。
室田 超弾性の機能がもっと強化されるといいですね。研究している材料モデルを組み込めるといいです。

ANSYSのユーザサブルーチンを使えば、材料モデルの組み込みも可能です。ANSYSの非線形機能はバージョンアップ毎に強化されており、今後は超弾性のダメージモデルなども搭載される予定です。その際はぜひご利用ください。

株式会社ブリヂストン 室田様、鮫島様には、お忙しいところインタビューにご協力いただきまして、誠にありがとうございました。この 場をお借りして御礼申し上げます。

「CAEのあるものづくりVol.10 2009」に掲載

記事中の2008年のANSYS Conferenceの事例につきましては、ANSYS Conference事例検索&ダウンロードページよりご請求いただけます。ご活用ください。

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