スペースシャトルエンジンの飛行適性

Pratt&Whitney

宇宙飛行のシミュレートにFEAを使用

Pratt & Whitney社の技術者たちは、有限要素法解析 (FEA) を用いて、スペース・シャトルのメイン・エンジンの重要コンポーネントについて耐空性(飛行適性)を確認しました。コンポーネント、つまり液体酸素ターボ・ポンプ中のダクトは、飛行の過程で1,500°F(816℃)の温度変化にさらされます。有限要素法解析ソフトウェアANSYSを用いて、技術者たちは、打上げ前から噴射停止にいたる飛行の全過程におけるコンポーネントの熱応答をシミュレートしました。次に、伝熱解析の結果を用いて、5つの異なる時点におけるコンポーネントの構造反応をシミュレートしました。

この解析結果により、応力値が高く亀裂を発生しやすい部分が数箇所にわたり発見されました。この情報は設計者にフィードバックされ、設計者は極端な温度変化に耐えられるようにダクトの設計を変更しました。これらすべての作業は、2か月で行われましたので、試作品を作成して実験する場合と比較すると劇的な時間の節約です。

Pratt & Whitney社の上級解析エンジニアーJoe Metrisin氏は述べます。「このようなパーツを作成して試験するには、約1年半かかります。また、応力を測定しようとしても、このようなパーツに応力計を取り付けるのは非常に困難です。実際解析を行ってみて、その手法がより速く正確であっただけでなく費用も安くあがりました。このダクトの試作実験を行うとなると、ターボ・ポンプ全体を製作し試験しなければならないので、何百万ドルもかかることになります。」

熱衝撃

United Technologies社の部門であるPratt & Whitney社は、フロリダ州ウエスト・パーム・ビーチにあります。Pratt & Whitney社は商用航空機、軍用航空機、およびNASA宇宙プログラム用ロケット・エンジンのためにガス・タービン・エンジンを開発しています。

近頃、Pratt & Whitney社は、スペース・シャトルの3つのメイン・エンジンで使用される高圧ターボ・ポンプを再設計しています。各エンジンは、液体酸素ターボ・ポンプと液体水素ターボ・ポンプを持っています。これらのポンプは、液体燃料がエンジンの燃焼室に入るときに圧力を加えることが目的です。たとえば、液体酸素ターボ・ポンプは、液体酸素を420psiから4,300psiに加圧します。

ターボ・ポンプが作動するのは、エンジンの作動中のみで、打上げからシャトルが前軌道段階に入るまでの約8分間となります。そのうち最初の5秒で、エンジン内の温度は-300°F(打上げ前にエンジン中を流れている極低温酸素と水素の温度)から1,200°F以上まで変化します(-149〜649℃)。

Metrisin氏は次のように説明します。「これは極度の熱衝撃であり、金属部品に亀裂を生ずることがあります。エンジンが数秒動いた後は温度は安定化し、飛行の大部分の間はかなり弱い応力しか生じません。しかし、噴射停止の際には温度が高温から低温に変化し、またしても同じレベルで逆の熱衝撃が生じます。」

以前、スペース・シャトルは他社のターボ・ポンプを装備していました。しかし、それらのポンプは毎飛行後にメンテナンスを必要としたために、結局のところ運用費が非常に高くつきました。そこでPratt & Whitney社は、メンテナンスなしで複数回の飛行が可能なポンプを設計することをNASAから請け負いました。

基幹コンポーネント

新しいポンプの設計にとって決定的に重要なのは、折返しダクトと呼ばれるコンポーネントです。このニッケル合金製パーツは、22の空気力学的支柱から構成されており、排気流の向きが変わる2つの壁面の間にある中央変向羽根を支えています。このパーツの目的は、タービン排気流が液体酸素タービン・アセンブリーから放射状に流出するように、その向きを変えることです。ダクトに機械荷重は殆どかかりませんが、エンジン環境の厳しい温度勾配により、応力が発生します。このパーツは、タービンから出てくる熱いガスに最初にさらされるため、特に損傷しやすい状態にあります。

ダクトの設計を担当したMetrisin氏は、3次元CADシステムのPro/ENGINEERを利用し、作業はこのPro/ENGINEERをベースに行われました。実は、これがANSYSを選んだ理由の1つでもあったのです。Metrisin氏は次のように述べています。「どんな解析パッケージでも使用できます。私がこのプロジェクトにANSYSを選んだ理由のひとつはPro/ENGINEERとインターフェースをとるのが容易だったからです。」同氏はPro/MESHを用いてパーツの有限要素モデルを作成し、続いてそのメッシュデータをANSYSに受け渡しました。

次のステップは、ダクト表面への熱荷重条件の適用です。このためのデータは、シミュレートされたシャトル飛行における気体温度を決定するために、計算流体力学を採用しPratt & Whitney社によって開発されたプログラムから得られました。このデータをANSYSに入力し、スペース・シャトルの全飛行過程におけるダクトの過渡熱解析を行いました。

以上が完了すると、伝熱モデルを応力モデルに変換しました。同じモデルを伝熱解析と構造解析の両方に使用できることが、ANSYSを選んだもうひとつの理由であるとMetrisin氏は説明します。伝熱解析で得られた温度およびダクトにかかる微少の機械荷重を基に、ANSYSを用いて飛行中の5つの時点におけるパーツの構造解析を行いました。始動中の2時点、噴射停止中の2時点、および定常飛行中の1時点です。

構造解析の結果、最も応力の大きい領域は流路の前端であることが分かりました。これは熱いガスがタービンから流出する部分です。この領域は非常に大きな応力にさらされるため、破断により壊損に至っていたとしても不思議ではありません。さらに、潜在的に亀裂を生ずるのに十分な応力にさらされている部分が20個所見つかりました。

設計者は解析結果をダクトの再設計に利用しました。最も大きな応力にさらされる流路の前端は、ダクトの他の部分から実際に分離されました。Metrisin氏は次のように説明しています。「この部分は温度変化に対して、ダクトの他の部分よりずっと速く反応し、始動時に熱衝撃が生じていました。ダクトの他の部分が冷たいのに、この部分だけが熱くなりました。この部分はリングですので、熱せられると外側に伸びようとします。一方、冷たい部分は内側に縮もうとするため、パーツに圧縮応力がかかりました。噴射停止の際には逆のことが言えます。冷たい内輪が熱い外輪に対して収縮し、パーツに激しい引張応力がかかりました。この流路リングだけ独立させるように、パーツを再設計しました。それにより、このリングは折返しダクトの他の部分から独立に膨張することができます。また、この流路リングの材料を熱衝撃に強いものに変更しました。」

再設計の後、ANSYSを用いてパーツに対して前回と同様の一連の解析作業を行いました。ダクトの設計を完成するために、全部で約5回の繰り返し計算を行いました。そしてその解析結果を検証するために、元のダクト設計に基づく試作品を試験しました。Metrisin氏は次のように述べています。「テスト・プログラムは、私たちの結果を裏付けました。試作品は解析によって予測されたあらゆる個所で亀裂を生じました。」

Pratt & Whitney社の液体酸素ターボ・ポンプは、3つのメイン・エンジンの1つに取り付けられ、1995年7月にスペース・シャトル「ディスカバリー」で最初の宇宙飛行を行いました。ポンプの成績は良好で、最近NASAは同ポンプに対して分解検査なしで10回の飛行を行うことを認可しました。今年の秋に行われる飛行では、シャトルの2つのエンジンにPratt & Whitney社のポンプが使用される予定です。

Metrisin氏が折返しダクトに対して行ったような複雑な解析は、Pratt & Whitney社にとって、いくぶん新しい分野でした。Metrisin氏によれば、以前は計算機能力によって解析の使用は制限されていました。しかし、様々な強力なワークステーションの購入およびANSYSの新しいPowerSolverの計算効率によって障害が克服されたからには、同社は設計者たちを支援するために、解析の使用を促進して行く予定です。Metrisin氏は次のように述べています。「このように大きなモデルを実行するリソースがなかった頃は、もっと試験に依存していました。今では、それと同じ情報が、設計の精緻化に間に合うだけ早く得られるようになりました。」

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