MEMSのモデリングとシミュレーションVol.2
(MEMSにおける流体−構造間相互作用の解析)

動的に動作しているマイクロメカニカルデバイスの応答関数は散逸効果により顕著な形をしています。Q値、過渡的オーバーシュート、設定時間などの動作パラメータを検出し最適化するために適切な減衰モデルが重要となります。減衰はさまざまな要因からなりますが、大気圧レベルでは周辺流体(通常は空気)における粘性減衰が明らかに支配的となります。真空レベルが高い場合のみ、構造減衰や電磁的な散逸効果の重要性が増します。

マイクロ流体

流体中で振動している構造物の粘性減衰は流体から受ける動的な力成分を積分したものとなります。励起に従い、構造-流体の界面近傍における圧力と流体せん断応力も振動すると考えられます。これらはナビエ・スト−クス方程式に支配されますが、ANSYS/FLOTRANを用いるならば二次元問題に対してFLUID141、三次元問題に対してFLUID142を適用することで、この現象を解析することができます。この現象を解析するためにANSYS5.7ではALE(Arbitrary Lagrangian-Eularian)法が導入されました。ALE法を用いれば、流体領域におけるメッシュの変形が可能ですので、流体に対して大きな振幅で振動する構造物を取り扱うことができます。多くのMEMSデバイスが7μm以下のサイズの狭いギャップを備えた構造をなしており、連続体流れから分子流れへの遷移領域における圧力で動作しています。分子流れは物理的性質が異なりますが、連続体流れで置き換えることは可能であり、この遷移領域における流れを扱うために連続体の流体理論に基づくFLUID141/142を適用することができます。

電圧で制御されるレーザースキャナに備えられているマイクロミラーアレイのANSYS/FLOTRANによる解析例を図1に示します。アレイ状のミラーは共振周波数で同期がとられていますが、各ミラーにおける位相のズレはその減衰定数に非常に敏感なものです。寸法誤差と減衰定数を結果として現われる位相差の統計的範囲と関連付けるための解析が必要となります。さらに、設計者はアレイ底部における空気の流れに起因する隣接ミラー間での流れのクロストークに関しても調べなければいけません。MEMSにおいては流れの現象による効果はエネルギーの散逸のみではありません。気体の圧縮性はバネのような挙動をもたらしますので、これを構造物の弾性と共に考慮しなければなりません。構造物の速度は時間に関して正弦波となりますが、これに対して位相差のない力成分を散逸項はもたらしますが(実数部)、気体の圧縮性は位相差を持つ成分をもたらします(虚数部)。スクイーズフィルム問題の場合、高い振動数においてこの現象は顕著なものとなります。Griffinらの論文によると、力成分において実数部と虚数部が同一となる振動数がカットオフ振動数として定義されます。カットオフ振動数によって、散逸項が支配的となる低振動数の範囲と圧縮性による効果が支配的になる高振動の範囲とが区別されます。


図1.静電マイクロミラーアレイの流体解析

モーダル減衰

本誌前号に掲載しました静電場―構造連成問題の過渡解析と同様に、流体―構造連成問題をシーケンシャル連成の手法で取り扱うことが可能であり、この手法では各タイムステップにおいてプレートの速度と流体による力が互いに受け渡されます。この手法は非線形性が高い振動を扱う場合に好まれますが、非線形性がそれほど高くない準線形(quasilinear)な系に対しては効率的とは言えません。準線形系の動解析を高速に処理することはモード重ね合わせ法を適用することで可能となります。このために、最も顕著な固有モードに適切な減衰パラメータを抽出することを目的に数値流体力学を用いることになります。構造に関する過渡動解析あるいは周波数応答解析においては、流体解析で得られたパラメータからα減衰/β減衰あるいはモーダル減衰の形式で構造系に減衰が与えられます。マクロモデルの自動生成に用いるモーダル分解の手法はモーダル減衰パラメータに頼っています。このトピックスに関しては本誌次号で述べることにします。

モーダル減衰定数の抽出手順は直接的なもので、構造領域におけるモーダル解析と共に用いられます。これに引き続き、導き出された固有モードの各々に対応する過渡流体解析を実施する際、固有ベクトルは流体領域モデルに対して固有振動数に対応する正弦波強制変位として逐次的に付加されます。反力分布を固有モードにマッピングすることで減衰定数を取り出します。流体から構造への反力のフィードバックなしの一方向のアルゴリズムは、流体からの反力がその絶対値を減じながらも固有モードの形を変化させないという利点を持っています。

伝熱とのアナロジー

数値流体力学は有限要素ソルバーにとって最も多くの負荷を要する業務のひとつと言えるでしょう。MEMSの解析において二次元近似が可能な多くの場合、数値流体力学をアナロジーを持つ伝熱解析で置き換えることができます。二次元化すること自体および自由度をTEMPだけにすることにより総自由度数を減ずることで、解析モデルの規模を縮小するという利益を解析者は享受することができます。この手法には簡略化が内在していますが、短時間で減衰データを得ることができます。これから紹介する二例はこのアナロジーを用いて計算されています。

スライドフィルムダンピング

スクイーズフィルムの問題では、潤滑問題の理論から、ナビエ・ストークス方程式を、プレート間での面内圧力分布を記述する二次元偏微分方程式であるレイノルズのスクイーズフィルム方程式に簡略化できることが知られています。穿孔を含め任意の板形状、フレキシブルなメンブレン構造、傾動運動を扱うことができます。レイノルズ方程式の適用は、ギャップに比べ小さい振幅の振動であり板の縁における圧力が零である場合に限定されます。伝熱アナロジーにより解析する際、板の局所的な法線方向速度が発熱として、圧力が温度として置き換えられます。微細構造物においてはスクイーズフィルムダンピングによる影響は大であり、場合によっては共振振動のピークを押さえ込む可能性もあります。これは板の寸法とギャップサイズに多いに依存します。図2に示すように、散逸をもたらす流れの効果が支配的な場合と高振動数デバイスにおいて圧縮性が支配的な場合とでは圧力分布は全く異なるものとなります。ギャップが5μm以下、動作振動が数十KHz以上である場合、この現象は顕著になります。非常に狭いギャップは構造物の固有振動数以下にカットオフ振動数を低下させることもあるでしょう。減衰効果はカットオフ振動数を越えてからはバネ効果となりますから、このような場合、感度の変化および応答関数における共振点のシフトは一般的なこととなります。


図2.マイクロミラーのスクイーズフィルムダンピング

スライドフィルムダンピング

スライドフィルムダンピングは、櫛歯デバイスのような構造物で顕著となります。櫛歯デバイスではギャップに対してせん断方向に歯がスライドします(図3)。同様な寸法の構造物であれば、その効果はスクイーズフィルムダンピングに比べ小さいものとなります。スクイーズフィルムと違い、スライド面に渡り圧力は一定となります。エネルギー散逸は構造周辺のせん断挙動に関する粘性により生じます。低い振動数においては線形の速度分布がもたらされます(クエット(Couettte)流れ)。振動数が高くなると、気体の慣性効果により付着境界厚さが急速に収縮し(ストークス(Stokes)流れ)、散逸はこの層に凝縮します。ストークス流れにおいて減衰定数は振動数依存であり、構造近傍における速度勾配の増大に起因します。

伝熱アナロジーを用いてストークス流れの問題を数値的に解くことができます。スクイーズフィルムダンピングでは構造物のトップビューから二次元熱解析モデルを構築しましたが、スライドフィルムダンピングではギャップ断面から二次元熱解析モデルを構築します。ここでは、圧力ではなく流体速度が温度で置き換えられます。


図3.櫛歯ドライブ/キャパシタのスライドフィルムダンピング

本文はANSYS Solution Volume 3 Number 3 に掲載されております "Analyzing fluid-structural interactions" (Jan Mehner(FEMware GmbH)、Juergen Wibbeler(CAD-FEM GmbH)の共同執筆)を転載したものです。

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