MEMSのモデリングとシミュレーションVol.1
(MEMSにおける静電場−構造の連成解析)

純然たるマイクロエレクトロニクスからマイクロシステムへの移行に伴い半導体技術は新たな時代を迎え、ミクロン単位の寸法を持つ微細な可動構造物がシリコンで製造され、オンチップあるいはマルチチップのモジュールとして電子デバイスに組み込まれています。このデバイスはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれています。これから、三回に渡ってMEMSの動的伝達関数を主題に連載記事を掲載します。今回と次回ではMEMSの動特性において最も重要な二つの連成効果である静電場と構造および流体と構造の相互作用に関して記述します。

エネルギー領域での連成

電子回路シミュレータPSpiceの登場により、膨大な選択肢である個々の電子回路を顧客に供給するだけでなく回路のバーチャルプロトタイピングを効率的に行うための適切なマクロモデルのライブラリを供給することも、半導体産業界では通常のサービスとなりました。トランジスタやICのように、マクロモデルはユーザーにとっては端子電圧と電流あるいはこれらの時間変化を関連付けるためのブラックボックスのようなものです。マイクロメカニカルコンポーネントや何らかのトランスデューサが回路の一部であるならば、電気的物理量と非電気的物理量とを関連付けるためにマクロモデルが必要となります。

可動部品を持つデバイスの動的モデルを見出す作業は、個々のエネルギー領域の幾何学的境界が不変でないために非常に複雑になります。とりわけ、動作中にミクロンの領域で電極間のギャップが開閉することに起因する関数をなすキャパシタンスを有するMEMSの場合は厄介なものです。いくつかのモデル領域を個々の変形状態に関して更新する必要があります(図1)。構造領域に対して非線形に作用する、静電場による力および流体による圧力が顕著なものとなります。

システム設計を担当するエンジニアの多くは、剛体仮定に基づき簡略化されたランプトパラメータモデル(lumped-parameter model)を用いています。回路設計自動化(EDA)の進歩は、(偏微分方程式系を解く)有限要素法および境界要素法によるマイクロメカニカルコンポーネントの正確な挙動を捕らえ、これらを(常微分方程式系を解く)回路シミュレータあるいはシステムシミュレータへ供給することを必要とします。
有限要素法解析(FEA)においてエネルギー領域の連成を確立するための方法がいくつかあります。ANSYS/Multiphysicsは、荷重ベクトルによる連成およびマトリックスによる連成のためのツールとアルゴリズムを提供しています。

荷重ベクトルによる連成では荷重ステップのレベルで個々の領域モデル間でスイッチングが行われます。マトリックスによる連成では、荷重ステップレベルですべての領域に関して連立解を求めることが可能な連成場要素(coupledfield element)が用いられます。また、MEMSモデルをダイレクトに連成するための新たなコンセプトに基づく要素としてTRANS126も開発されました。

動解析のためのモデリングにおいて、連成のための基本的テクニックを知り、荷重ベクトルによる連成(および緩和テクニック)とマトリックスによる連成の違いを把握することは重要です。

荷重ベクトル連成では、静電場領域で更新された静電気力が構造領域へ渡され、逆に構造領域で得られる変形が静電場領域へ渡されます。これが交互に繰り返されます。一方、マトリックス連成では、全体マトリックスの中に領域を関連付けるための結合係数が含まれており直接解法のみで解くことが許されます(オンラインドキュメントの連成場解析ガイドを参照のこと)。結果として、荷重ベクトル連成は過渡解析に応用することが可能ですが、微弱信号に関するモーダル解析および周波数応答解析の結果は正しくないでしょう。例えば、静電場スティフネスdF(V,u)/duは典型的結合係数であり、電位依存の共振をもたらし、後に示す例のように共振点をシフトさせます。


図1. MEMSデバイスのモデリングはさまざま解析領域の相互作用を必要とする

図2. ANSYS-PSpiceインタフェースによるシリコンマイクロミラーアレイの
動的システム挙動のシミュレーション

過渡解析

過渡解析は、デバイスの実際の非線形振動に関する洞察をもたらし、連成場要素を必要とせず、各タイムステップにおいて単なるデータの交換を繰り返すことによって回路シミュレーションとの相互作用を可能にします。Chemnitz工科大学で開発されたシリコンマイクロミラーアレイの過渡的挙動を調べるためにFEM-ware社とCAD-FEM社はANSYS-PSpiceインターフェースプログラムを作成しました(図2)

このようなデバイスの用途は、画像処理のための電圧制御によるレーザースキャナです。電圧が印加された状況下でのミラーセグメントの曲げは顕著であり、ひとつひとつのセグメントは独立に機能せず、常に隣接するセグメントの挙動に影響を受けるため縁の部分での電場は無視できないため有限要素解析は必須と言えます。表面を平坦化し、動作中におけるセグメントの同期性を非常に高い精度で保つことは光学的品質を得るために重要となります。ミラーはフィードバック制御で動作し、ミラーを励起するために裏面電極に高い電圧が印加され、ミラーの回転角を得るためにギャップ部のキャパシタンスが即座に検出されます。

PSpiceとANSYSとのイタレーションサイクルにおいて、ANSYSはPSpiceから出力される電位を即座に読み込み、そのタイムステップにおける解を求めPSpiceにキャパシタンスを戻します。回路シミュレータであるPSpiceはキャパシタンスの値を読み込み同タイムステップにおける回路の応答を計算し、次のタイムステップのための新たな誘起電圧をANSYSのために書き込みます。ふたつのソフトウェア間でのデータ交換とタイムステップの同期はASCII形式ファイルを介して管理されます。収束解を得るためにANSYSは実際に繰り返し法によるシーケンシャル連成を実施しますが、このために必要なAPDLコマンドは数行程度にすぎません。この手順はシステムシミュレーションを必要とせずANSYSを単独で使用する場合とまったく同様のものです。無論、ANSYSを単独使用する場合、電位の時刻歴データをユーザーが定義しなければなりません。

図3. 静電AFEMデバイス

微弱信号の解析

MEMSコンポーネントは非線形則で支配されるとは言っても、その動的パラメータの多くは、固有振動数、固有ベクトルや周波数応答曲線などの微弱な信号特性となります。これらのデータは低減化マクロモデル(ROM;reduced-order macromodel)を作成するために必須であり且つ回路シミュレータへ引き渡さねばならないものです。

ANSYS/Multiphysics5.6から利用可能となった静電トランスデューサ要素TRANS126は連成マトリックスを用いており静電場−構造問題に関して初期応力効果を含めてモーダル解析と周波数応答解析を可能とします。この要素は内部変数として荷ではなく電流を扱うため、P L A N E 6 7 、SHELL157やCIRCU124のような電流を扱える伝導領域の要素と併用することができます。マトリックス連成MEMSモデルは任意点に対する電気的あるいは機械的な正弦波荷重を負荷して解かれます。マトリックス連成の例としてマイクロメカニカル原子間力顕微鏡(AFM)の事例を紹介します。(図3)原子間力顕微鏡は半径がナノメートル規模のチップを持つマイクロカンチレバーを基にしており、その共鳴振動数はチップ試験片で1ナノメートル以下の距離間に働く原子間力に対してさえ敏感に反応します。研究者はこの現象を用いて物質原子の表面構造を分析しているのです。

原子間力顕微鏡で使われている静電AFMデバイスは運動場のような形状であり、静電場-周波数応答解析がわれました。10μmのギャップで隔てられた二つの三角形状のカンチレバーそれぞれの裏面に三つの電極が配置されています。AFMチップと試験片表面との間の近傍は位置決め電圧VPで制御されます。交流電圧VDは動作振動数でチップを励起しその振幅はピコメーターの範囲となります。機械的振動の振幅はVSでの電流ISによって検出されます。励起振動数が共振振動数に近いが同一ではないならば、応答振幅はチップでの原子間力によって共振点のシフトに対して非常に敏感に反応します。検出電流ISはチップにおける力の勾配を測る目安となります。

図3中には表示されていませんが、一層のTRANS126要素が裏側の構造節点を対応する電極と結びつけています。チップでの原子間力は非線形性を持ち、これは力と距離の関係が多項式で入力されているTRANS126要素で表現されます。ある位置決め電圧VPに関して静的構造解析を行った後に励起電圧VDによる周波数応答解析を実行します。いずれの解析ステップにおいてもPSTRS,ONのオプションを適用し、静電バネのソフトニング効果を保持します。周波数応答解析の結果は静電バネのソフトニングと共振点でのチップ原子間力の効果と検出信号を表しています。

結論

静電場-構造の相互作用は一方ではMEMSコンポーネントに多大な影響を及ぼし、他方では電子回路へのシグナルリンクを構築します。マトリックス連成の要素の導入によって、過渡解析のみならず初期応力を考慮してのモーダル解析、周波数応答解析が可能であり連成問題での動的特性を把握することが可能となりました。有限要素解析(FEA)はMEMSのコンポーネントレベルでの包括的設計を可能にしました。この分野におけるソフトウェア開発は世界的にスピードアップし始め、設計担当エンジニアはシステムレベルでのシミュレーションに適合するようなさらなる数値解法やツールの供給を受けることになるでしょう。

本文はANSYS Solution Volume 3 Number 2 に掲載されております"Analyzing electrostatic-structural interactions in Micro Electro Mechanical Systems"(Jan Mehner(FEM-ware GmbH)、Juergen Wibbeler(CAD-FEM GmbH)の共同執筆)を転載したものです。

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