ステアリングのためのトルクセンサーの解析

Mannesmann 社

かつてMannesmann 社(Mannesmann VDO AG)が電子ステアリング部品の開発を始めた際、そのステアリングはギヤトランスミッションを備えた「感応型」電気モーターによってアシストされていました。運転者がステアリングを廻す際に発生するトルクは電気モーターの挙動を制御するための入力信号に変換されました。このトルクを計測するためのセンサーがステアリングシャフトに装着されました。このような部品を用いることは、自動車メーカーにとって機械的コンポーネントの削減をもたらし、すなわち油圧系に比べ、重量、スペース、パワー浪費を省くことが可能であり、且つ環境に優しいシステムと言えます。ここでは開発に携わった同社におけるシニア工学解析スペシャリストであるDr. Zlatko Penzar による開発経緯を紹介いたします。

当初のコンセプト

最初のコンセプトでは、このセンサーは表面に薄膜状のセラミック抵抗を貼り付けただけの鉄製の棒でした。表面に貼り付けた抵抗がひずみゲージの役目を果たします。棒が捻れると、その表面の変形が貼り付けられているセラミックの電気抵抗を変化させます。この電気抵抗の変化をモニタリングすることで捻り変形をもたらすトルクを計測することができます。

実験室での最初の試みは実に単純なもので、辺が均一な矩形断面を有す鉄製の棒が用いられました(図1)。この試みの主目的は、鉄に薄膜状セラミックを貼り付けるという、それまで行われていなかった技術を習得することにありました(セラミックに関する薄膜技術は今日ではより一般的なものとなっています)。この最初の試みの結果は技術的な実現性という意味において勇気付けるようなものでしたが、いくつかの悪い知らせをもたらしました。計測結果は、絶望的なくらい信号が微弱であり必要とする数値を遥かに下回るものでした。


図1.捻り変形状態で棒表面に発生する主ひずみベクトルの分布。
黒色で外向きは引っ張りを青色で内向きは圧縮を表す。

有限要素解析の応用

この時点で、有限要素法が用いられました。第一の目的は、我々のコンセプトに伴い、避けようもない事実である「なぜ信号がかくも微弱なのか」を説明することでした。単純な棒に表面の変形をANSYSで解析することは些細な問題です。翌日には、どのような現象が生じているかを明らかにすることができました(図1)。

単純な棒に捻り荷重を与えると、表面上のいたる個所において、引っ張り方向と圧縮方向の主ひずみが、大きさが同程度でその符号のみが異なるように発生するということが明らかになりました。表面の変形に伴い、セラミックの電気抵抗率は相対的に次式に従い変化します。

ΔR/R = KLεL+ KTεT (1)

ここで、εLとεT は電流の向きに対して縦方向(L)および横方向(T)のひずみを表し、KL とKT は対応する比例定数となります。セラミック材料を用いる場合、εL = 13.5、εT = 11.0 が典型的数値となります。

電流の流れる方向に関する電気抵抗とその方向の主ひずみとが共直線関係にあるならばεL = −εT となります。(1)式に従い、二つの主ひずみが信号にほぼ等しく寄与します。しかしながら、その符号は正反対であり、結果として計測効果を消失させることになります。セラミックの抵抗を別の配置で用いれば、状況はさらに悪化します。

さて、なぜ期待通りの計測ができないかが理解できました。しかし、何か良い方法はないのでしょうか。ここで、表面におけるひずみ場に関する洞察と問題に対する即解答を明らかにします。捻り荷重が、局所的に引っ張りまたは圧縮方向のいずれかだけに顕著なひずみを生ずるようにセンサーを設計し直すことに挑戦しました。基本的な工学的知見から、これは典型的な曲げ変形に該当します。よって作業目標は局所的な捻り変形を曲げ変形に変換することでした。これを成し遂げるセンサーはおそらく数千もあるでしょう。これこそがコンピュータシミュレーションを用いる第二の利点なのです。試作品を製造しなくとも、思いついた形状を直ちにモデル化し、それが本質的にどのように振舞うかを知ることができるのです。

一例を図2に示します。丸棒を二つに切断し、これら2本の端部をこれと直交する形式で翼状板で橋を渡すように接続しました。変形図から棒との結合部分近傍において翼状板の変形は曲げが支配的なことは明らかでした。このように、完璧なトーション・センサーを製造するための物理現象を明らかにすることができるのです。しかし、個々に完璧な解は全く無意味なものでした。センサーは遥かに幅広なものになりステアリングシャフトに収納できなかったからです。


図2.設計変更。棒の捻りが翼状板の曲げに変換される。
翼状板表面では主に引っ張り応力が発生。

この時点で二つの事柄、すなわち(1)当初のコンセプトにおける不具合の理由(2)仕様を完璧に満足するデバイスを製造する方法が判明していましたが、これらはいずれも組み立て部品というコンセプトとは矛盾するものでした。有限要素解析担当者と開発チームはブレインストーミングミーティングを開き、知り得た事柄をベースに有効と思われるコンセプトを創造しようと試みました。結果、次のようなアイデアが浮かび上がりました。必要とされる狭い幅のセンサーを作成するが図2に示すトポロジーは保持する。このアイデアの実現性を検証するためにANSYSによるシミュレーションが再び用いられました。二日後、原則的に望ましい結果を得ることができました。

まず、図3に示す構造が図2に示す構造とトポロジー的に等しいことを理解する必要があります。中央部の孔と周辺部のノッチとの間の部分が図2の翼状板を縮退させたものに相当します。基本的に、この縮退した“翼”の部分では棒の場合と同様の物理現象が生じます。捻りに対して生ずるひずみのパターンは(中央の孔からかなり離れた個所で)局所的に変換され主に曲げのパターンとなります。


図3.トポロジーを保持しつつ幅が狭いセンサーというコンセプトを実現した改良モデル。

この方法では、最初の構造形状に比べ検出される出力は5.5倍になり、部品そのものが組み立て部品としてのコンセプトにマッチするものでした。無論、この時点で作業を止めはしませんでした。ANSYSの後処理機能とANSYSパラメトリック言語(APDL)の機能とを用い、ANSYSにおけるデフォルトの出力項目ではない物理量を算出しました。主ひずみの結果から構造全体に渡る信号分布を算出いたしました(図4)。この結果に従い、抵抗を配置するために最適な場所と抵抗の向きを吟味することができました。さらに、センサーからの現実の出力を表す、配置された四つの抵抗のホイートストン・ブリッジ信号が計算されました。


図4.信号場((1)式に従い、表面上の位置に依存してひとつの抵抗に生ずる
相対抵抗の変化)と四つの抵抗(R1からR4)の配置

ここで、数値を比較したがる管理者やテクニカルマネージャーのために、いくつかのインフォメーションを提供しましょう。ここで示したモデルはいずれも一人の有限要素解析担当者によって約一日から二日の間でシミュレーションが成し遂げられています。試作品を製造し試験するためには数週間を必要としたでしょう。鉄のサブストレートをカットし、薄膜と電気コネクタマスクを作り、薄膜を溶着した後に焼き、試験のための電子機器を準備しなければならないからです。

我々は、センサーの配置に関して大小取り混ぜ少なくとも30種類のセンサーに関して、同様のことをコンピュータ上で成し遂げた後に満足する解を得たのです。開発開始時、各種試験時、最終的なレイアウトの最適化の段階のいずれにおいても試作品はコストが掛かります。

ここで紹介したような概念設計における成功は別にしても、解析なしに開発を行うことはおそらく不可能であり、解析がセンサーの開発コストを一桁も節約したことは明らかでした。

設計最適化

実用環境下において、センサーは捻りだけでなく、製造過程において、あるいは組み立て時のばらつきの結果として(曲げやせん断などの)予期せぬ荷重にもさらされます。これらの影響は、センサー信号に偽の効果をもたらすかも知れません。これら予期せぬ荷重に対する信号の依存性を調査することで、曲げ力やせん断力をもたらすような荷重に対してセンサーセルが感応しないように抵抗を配置し、トルクセンサーを最適に補正することができるのです。

さらに、数値結果の検討を通して、非常に単純な数式が抵抗位置や様々な荷重に対する信号の依存性を支配していることが判明しました。これによって、当初望んでいたもの以上のセンサーを迅速に開発することができました。せん断力と曲げモーメントのセンサーを開発し、望ましくない荷重による効果を打ち消すようにこれらセンサーを最適化したのでした。


図5.製品化されたトルクセンサー

ANSYS Solutions Volume 3、Number 2 より転載したものです。

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