ユニバーサルスタジオでアトラクションの人気を保つ秘訣は有限要素法!?

GLENCO Engineering 社

フロリダのオーランドにあるユニバーサルスタジオの絶叫マシン“スパイダーマンライド”は、一日平均数千人が乗る人気アトラクションです。でもおそらく、その足元に工学テクノロジーによる安全策がめぐらされているとは、誰もが気付いてはいないでしょう。
その絶叫マシンは、移動用の台車の上に乗客用のオープンキャビンが備え付けられるという構造です。ですから、土台のみで動きを制御するには、このオープンキャビンをいかに軽量化するかが課題となります。そこで、ユニバーサルスタジオは、この乗り物の最も重要な構成部品であるキャビンの床に、カーボン繊維の複合材料技術を採用しました。
このような乗り物を製造する上では、当然ながら乗客の安全が最重視されます。ですから、十分な耐久性が求められることは言うまでもありません。またこのキャビンの場合、複合材料を使用している床の部分は基本的に修理が不可能なため、その精巧性は特に重要なわけです。万が一この床を取り替えることになると、キャビン全体を床から全て作り直すことになり、たいへんな作業を伴うのです。
さらに“スパイダーマンライド”には多額の出資がなされており、熱心な宣伝活動も行われています。ですから、少なくとも年間を通して毎日16時間の稼動が要求されているわけです。ユニバーサルスタジオの上層部は、テーマパークの開園中にそのアトラクションが機能せず、子供達を含めて休暇を楽しみにやってくるお客様を失望させることだけは避けたいと強く願っているのです。
ユニバーサルスタジオでは、乗り物関係のアトラクション全てを閉園してからの夜間に点検しています。その上、日常的なメンテナンスや修理は予め調節された運転間隔の間で行うように徹底しています。キャビンの床を取り替えるような予期しないメンテナンス作業が発生すれば、瞬く間にアトラクションの人気を落とすことになるでしょう。

このような厳しい条件の中でこの“スパイダーマンライド”が稼動するために、実は製作前のキャビンの設計検討段階で有限要素法による解析が行われました。ユニバーサルスタジオがその解析作業を依頼したのは、GLENCOEngineeringInc.,です。GLENCOは、航空宇宙などへの適用を目的として開発されたエンジニアリング手法を使って、テーマパーク業界で構造解析やひずみの測定試験を実施することを事業内容としています。また同社の航空宇宙分野における実績としては、Alligd-SignalやTRW.Inc.,またHughesAircraftCo.などがあります。
“スパイダーマンライド”の解析にGLENCOが使用したソフトウェアは、ペンシルバニア洲キャノンスバーグに本社があるANSYS,Inc.のANSYS/Mechanicalでした。
ただし、ユニバーサルスタジオは、コンピューターによる解析を実行する前にも、創造性を損なわないために試作品も製作し、他の設計作業とも並行して実験を行いました。その床の試作品は、まずは片持ち梁のような挙動を前提に手計算によって設計されました。その仮定のもとで実施された一連の試作実験では、ひずみ測定器は床に発生する応力は低いという結果を出しました。しかしながら、ユニバーサルスタジオのエンジニア達は、乗客にとっては床の揺れと振動が気になるレベルではないかと感じたのです。このようにして、この初期の実験で、床の曲げ剛性とともに固有振動数が増加する傾向にあることが示されました。
そこで、有限要素法による解析を実施し、キャビンの床の剛性を増やした際に、手計算と実験によるひずみ測定で得られた値よりも最大ひずみが高くなる場所の特定作業を行いました。キャビンの床は、複合材の積層の中心部分に埋め込まれた鉄製リングを介して台車に取り付けられています。有限要素法では、予想どおり複合材料における最大ひずみは、鉄製リングの最前方部(12時の方向)に隣接しては発生しないことがわかりました。しかし、鉄製リングの3時と9時の方向では、最大ひずみが発生していたのです。
この解析結果は、キャビンの試作実験の際に動的なひずみが得られたことによって確認されました。このように有限要素法の利用により、キャビンの床の剛性と強さがたった一回の設計検討だけで大幅に改善されたのです。このプロジェクトはスケジュール通りに進行し、“スパイダーマンライド”はオープン時には絶大な評価を得て、以来変わらずトップの人気を維持しています。
“スパイダーマンライド”は、ニューヨーク市のマンハッタン島とその住民を破壊しつくそうとする“ドクターオクトパス”を退治する勧善懲悪の物語です。アトラクションの中では、“スパイダーマン”と“スパイダーマンライド”の乗客達が一体となって、不気味な悪者達を倒していくのです。
また“スパイダーマン”では、ハリウッドの特殊効果の神様と言われる、スティーブン・スピルバーグのノウハウが随所に見られます。高速移動シミュレーターと特大の3Dグラフィクス、またカスタマイズされた機械的アニメーションや華々しい特殊効果などにより、乗客の周囲のいたるところで繰り広げられる激しい戦闘が実現するのです。そして乗客は、悪者達が仕掛ける水道管の破裂やお化けが爆発させるかぼちゃ爆弾の衝撃をかわすしくみになっているのです。

幻想的世界における荷重

“スパイダーマン”では、3Dのビデオを伴ってキャビンの台車が移動します。そして、25個の巨大プロジェクターと小型の多数のプロジェクタ−によって、それらのアクションは常に乗客の目前に迫り来るように見えます。さらに、空中400フィートまで持ち上げられ、その後地面の高さまでまっすぐに落ちるという体感シミュレーションもその中に含まれているのです。実際には、その落下は台車底部が1フィートだけ落ちるという動きだけなのですが、そこで誘発される感覚は驚くほどリアルなのです。
“スパイダーマン”のようなパフォーマンス性の高い乗り物は、かなりの加速度がかかり、それに伴いオフロードを四輪駆動車で走るのに匹敵するくらいの荷重が負荷されます。
上下左右の揺れや持ち上げ、というような動きに加えて、乗客の注意を絶え間なくアクションに向けておくために、乗り物の台車部分はキャビンが針路に対し360度回転できるようになっています。このような中で、床はキャビン全体の構造と約12人の大人による荷重を支えていますから、床の状態の完全性は乗り物の操作にとって非常に重要なのです。

その床の有限要素法モデルは、複合材の積層のどの領域にも適用できるよう、直交異方性の特性を持つように作成されました。複合材の表面と内部のリブの弾性は、各セクションにおいて、ガラス繊維強化素材やカーボン繊維の向きに基づいて定義されています。
これは明らかに、全ての方向に対して材料特性が一様な等方性の金属構造物の解析とは異なります。床の表面とリブは15個所の異なる領域にそれぞれ異なる材料特性を持っており、このような材料特性を正確に定義することは、ひずみ測定値との相関関係を見る上で重要な作業なのです。
キャビンのアセンブリ全体のモデルは、20,000要素の解析モデルとなりました。この大部分はシェル要素で出来ており、残りはビーム要素、スパー要素、バネ要素で構成されています。ですからこの解析計算は、およそ110,000もの自由度を持つものとなり、データベースファイルの容量は約20Mb、3段階の荷重を加えたモデル全体の解析の結果ファイルは約110Mbとなりました。
このモデルは、ユニバーサルスタジオから提供されたデータを使い、ANSYSのPrep7のプリプロセッサーで直接作成されました。もっとも、最初のデータは2次元の図面であったので、それと床の組立て表を参考にしながら3次元化したわけです。床の構造解析は、ほとんどが線形でしたが、床とキャビンのドア部分に関しては、非線形の大変形解析も実行されました。そして、全てのポスト処理にはANSYSのPost1の処理が行われました。
これらほとんどの作業に使用されたのは、300MHzのインテル製Pentium2のPCです。マシンのメモリは192Mb、ハードディスクは6Gbの容量だったのですが、3段階の荷重を与えたこのキャビン全体のモデルの解析には、2時間30分を要しました。また、同じ条件下でキャビンの床部分のみで解析した場合も、約30分の解析時間を要しました。
この解析作業時間を比較するために、GLENCOでは550MHzのPentium3搭載でメモリが768Mbでハードディスクが54GbのPCにアップグレードした際に、再度同じ計算を実行しました。すると、この新機種での解析は、ANSYSのIternativeSolverを採用して、たった18分にまで短縮できたのです。
最も激しい荷重条件である急な縦ゆれに対する床の反応は、もともとユニバーサルスタジオのエンジニアが予想していたものと同じでした。結果として得られた曲げ変形は、飛び込み板の片持ち梁と同様に、キャビンの先端を上下に揺れさせるものであったわけです。
また、有限要素法モデルの固有振動数は、試作品の実験によって既に求められる値とほぼ一致しました。その正当性は、むき出しの床のみのモデルと完全に組み立てられたアセンブリとの双方の解析に対しても実験との比較を行うことで、さらに確実なものとなりました。また、ボディの構成部品にかかる慣性を増やすと、3次モードの固有振動数が低減されました。
さらにそのモデルの解析は、床の中央にリブを追加し床内部の縦軸方向にある補強リブの厚みを増やしたときに、上下動の軸の撓み剛性がほぼ2倍にまで上がることを証明しました。そしてこの変化により、キャビンの重量にほとんど影響を与えない範囲でも、床の振動数をかなり増加させることがわかりました。
また有限要素法により、内部の鉄製リングにより生ずる円形の拘束によって、予想を越える最大ひずみが予期しない場所に発生することも予測されました。そして、これらの急な上下動による曲げが引き起こすひずみは、片持ち梁との類似性に基づいて予想されたリングの最前部よりも、キャビンの側面に近い場所の鉄製リングに接する部分にて見受けられたのです。
さらにその結果の考察により、構成部品の表面における最大ひずみは、主に剪断性であることがわかりました。その結果として、キャビンの床の中央線に対しておよそ45度の角度で主ひずみが起こっていたのです。その発見は、この方向に対して床の製作時に更なる材料の積層が必要となることを導きだしたのです。

直接測定

この解析は、実際のひずみ測定によっても実証されました。この測定では、3点方向のひずみ測定器が、初期の試作実験では取り付けられなかった床表面の鉄製リングの周囲部分に設置されました。そして台車部分を静的な状態としてキャビンを取り付けた試作品に対して実験が行われました。この装置は、マシンに乗っている間に予想される加速度をシミュレーションしたものです。
その動的なひずみ測定を行うことにより、解析モデルが複合材の床の表面における最大ひずみの場所と方向を正確に予測したことを証明しました。またこの測定では、線形の角加速度の測定も含んでいました。これは測定されたひずみと解析計算で得られたひずみの比較が、一定の荷重条件に基づいていることを指しているわけです。

最大ひずみの半減

以下の確認作業においては、モデルは床表面における最大ひずみを低減するための設計変更に使用されています。試作品の床に適用されている繊維材の方向は、片持ち梁の仮定に基づいて調整されたため、ほとんど前方から後方、側面から側面となっていました。しかし、これは鉄製リングによる円形の拘束条件によって発生する剪断ひずみを考慮していなかったのです。
そこでカーボン繊維素材を2層重ね合わせたものが、キャビンの床の鉄製リングが埋め込まれた周囲に加えられました。これは最大主ひずみを中和させるために、キャビンの中心線に対して45度傾けて追加されたのですが、このカーボン素材の重ね合わせにより、最大ひずみが半減していることが判りました。ユニバーサルスタジオにとって、カーボンの設計上重量は非常に大事なポイントだったため、この小さな領域における素材の重ね合わせは重量を最小化する上で大きな効果をもたらしたのです。
これらの解析計算における予測は、さらなるひずみ測定によって実証されました。2番目の試験は、設計変更後の床の構成部品を含む乗り物の完成品を実際の軌道上で運転したもので行われました。
“スパイダーマン”のキャビンを使った有限要素法解析は、床の構成部品の設計を大幅に向上させました。有限要素法を採用せずに測定されたひずみでは、最初の試作品を生み出した設計を誤って評価するところでした。しかし、解析を取り入れることにより、エンジニアが直感的に理解できなかった最大ひずみを発見してくれたのです。
その結果は大きさだけでなく、主ひずみの方向も含めた動的なひずみ測定によって実証されたのです。有限要素法モデルは、たった一度のシミュレーションで床の設計を確実に改善できた価値あるツールなのです。

本文はANSYSSolutionVolume2Number4に掲載されております"FEAHelpsSealCriticalOil-WellInstruments"を転載したものです。

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