ガスケットモデルにおける非線形性の取り扱い

Cummins,Inc.

ディーゼルエンジンのシリンダヘッドにおけるガスケットによるジョイントのモデリングは、ヘッドのガスケットとして用いられる材料の非線形性によって複雑なものとなります。この材料特性を線形として扱えば解析結果における誤差は著しいものとなります。SOLID185のガスケット材料オプション(訳注1)による一次元非線形近似を用いることで、マルチシリンダヘッドのガスケットジョイントモデルで避けられない大規模モデルに関して実践的な計算時間を保ちながら、ガスケット材料の非線形応答を十分に再現できます。

以前のANSYSによるシリンダヘッドガスケットジョイントに関する解析では、弾性率を使用できるようにガスケットの非線形応答を線形化するというプロセスを用いていました。この設定は程々に有効ではありますが、ガスケットが受ける荷重範囲の全般に渡りガスケット材料の応答が線形であることが不可欠でした。また、この手法はジョイント部の全体的挙動を捉えますが、線形材料という仮定はガスケット周辺、特に負荷が高い領域での荷重変動を正確に予測するには不十分なものでした。このような制約が、SOLID185要素に関してガスケット材料オプションを作成する動機付となりました。ガスケットの厚み方向に関して一次元的応答に限定されてはいますが、この材料オプションを用いれば任意の非線形荷重曲線および荷重依存の非線形除荷曲線を定義することができます。初期のクリアランスとセパレーションを材料の応答に組み込むことが可能であり、結果として接触要素を使用する必要がありません。

モデル概要

ヘッドガスケットジョイントの正確なモデリングはエンジンコンポーネントからなる複雑なアセンブリを必要とします。コンポーネントを結合させる方法と同様に、これらが相対する面におけるメッシュには特別な配慮が必要となります。ここで紹介するヘッドガスケットジョイントのモデルはカミンズ社のISXディーゼルエンジンのものです。ISXは15リッター、600馬力、直列6気筒のエンジンです。このエンジンのヘッドガスケットを 図1 に示します。ヘッドガスケットジョイントのモデルには、シリンダヘッド、ヘッドガスケット、ライナー、シリンダブロックおよびヘッド押えネジが含まれています。ISXに関するヘッドガスケットジョイントのモデルを 図2 に示します。ヘッドガスケットモデルのコンポーネントのいくつかを 図3 に示します。このヘッドガスケットを作成するステップで最も難しい作業のひとつとして、コンポーネント間の界面において節点パターンを一致させなければならないことがあります。このことは非常に重要な取り扱いです。ガスケットコンポーネントの非線形材料特性と一般化接触とを併用すると、この大規模なモデルでは解析時間が膨大になる傾向があるからです。


図1.ISXエンジンのヘッドガスケット

図2.ISXシリンダヘッドガスケットジョイントモデル

図3.ヘッドガスケットのコンポーネント

形状の修正

際限なく長時間燃焼するエンジンのシミュレーションが可能なようにCADパッケージPro/ENGINEERを用いてモデルのシリンンダ断面の1/2から3/2の部分が切り出されました。シリンダが燃焼という事象に置かれている間でのヘッドガスケットに関して精度が良い結果を得るためには、これが最低限必要なモデルサイズです。シリンダブロックは中間での支持構造から下側が切り取られています。最後に、シリンダヘッドとシリンダブロックからなるモデルは、ブロック上面の形状が、これに対応するヘッド下面での形状とがマッチするように修正されました。

ANSYSモデルの作成

シリンダヘッドのソリッドモデルがダイレクトトランスレータによりANSYSへインポートされました。シリンダヘッドの下面は三角形状シェル要素でメッシュ分割されました。燃焼ガスシールおよびグラファイトリングと接触するエリアは、後で生成するガスケットコンポーネントの六面体メッシュの節点パターンとマッチするように、三角形要素によりヘリンボン模様(矢筈模様)のようにメッシュ分割されました(図4でヘッドガスケットを除いた拡大図を参照)。この操作では、ヘリンボン模様の対角線上に位置する中間節点が、六面体要素面の中心とマッチしていないものもありますが、このメッシュに関する非整合性は接触応力に関して顕著な誤差をもたらさないことがテストの結果から明らかでした。ヘッド下面のエリアはガスケットのボディマテリアルとマッチしていますが、これはエリアメッシュと共に下方へコピーされボディマテリアル上面を生成します。ボディマテリアル上面のエリアは下方へ押し出されガスケットボディのボリュームと三角柱形状のボリューム要素を生成します。ライナー、燃焼ガスシールおよびグラファイトリングに関しては、最初に二次元断面を定義し四辺形シェル要素でメッシュ分割した後に回転の操作によりボリュームと六面体形状要素が生成されます。燃焼ガスシールの断面は実際には円ですが、矩形断面でモデル化されました。シールが押しつぶされ断面が丸から楕円になるように接触幅の増加により剛性が高まることは、燃焼ガスシールの形状や接触現象ではなく、材料の非線形応答によりモデル化されました。 次に、シリンダブロックのソリッドモデルがインポートされました。ブロック上面とマッチすべきヘッド下面のエリアが三角形状エリアメッシュと共に下方へコピーされシリンダブロックのボリュームへマージされました。ヘッド押えネジは直接生成法で作成されました。ライナーと接触するシリンダブロックのエリアは三角形状シェルによりヘリンボン模様でメッシュ分割されました。最後に、シリンダヘッドとシリンダブロックに関するボリュームメッシュ分割が行われ、全体のモデル規模は概算で200,000 要素、400,000 節点となりました(訳注2)。


図4.シリンダヘッドとヘッドガスケット

拘束条件とコネクション

最初に、水平方向にカットしたシリンダ断面のふたつの端面において法線方向に拘束し対称条件が与えられました。次に、シリンダブロック下側カット面で垂直方向に拘束し、さらに剛体移動を回避するためにひとつの節点において水平方向に拘束されました。ライナーは中間位置でシリンダブロックと垂直方向にカップリングされました。また、ライナーのトップで、ライナーとシリンダブロックの界面において径方向の拘束方程式が作成されました。さらに、剛体移動を回避するためにライナー側のひとつの節点がシリンダブロック側のひとつの節点とが接線方向(周方向)にカップリングされました。燃焼ガスシール、グラファイトリングおよびボディマテリアルはシリンダヘッドとシリンダブロックと3方向にカップリングされ、剛体移動を回避するためにシリンダヘッド上のひとつの節点が水平方向に拘束されました。最後に、ヘッド押えネジの各々に対して( ボルト張力を与えるために)PREST179要素を用いてプリテンション断面が作成されました。

ガスケット材料の応答

ガスケット材料オプションは、ガスケットジョイントの挙動を巨視的に調査するために使用すべきです。ガスケットの詳細な研究ではなく、ジョイントの挙動に焦点をあてるべきです。ガスケットに関する詳細な結果が必要ならば、さらに精巧な材料モデルが必要でしょう。ガスケット材料オプションはガスケットの応答を予測するものではなく、材料の応答をユーザーが入力できることを可能にするものです。すなわち、最初にガスケット材料の非線形応答を実験によって定量化する必要があります。非線形ガスケット材料のために入力すべき応答は、ガスケットの厚さ方向における応力と変位との関係です。SOLID185要素は三次元要素ですが、ガスケット材料オプションは厚さ方向の剛性のみを持ちます。モデルが拘束されている場合、この事柄を理解しなければならないし、ガスケット要素は面内方向に剛性を持たないことも留意しなければなりません。

ボディマテリアル

ボディマテリアルはスチール製キャリヤーに機械的に付着されたグラファイトのレイヤーで構成されています。圧縮過程でのグラファイトレイヤーの焼きしまりが非線形応答をもたらします(図5)。除荷の過程でも応答は非線形であり明らかに荷重レベルに依存します。ガスケット材料オプションの強みはこの複雑な応答をモデル化可能なことにあります。ANSYSへ入力される材料の応答は単一の荷重曲線と複数の除荷曲線です。除荷曲線の各々は荷重曲線上に予め決めた点を起点とします。除荷曲線の最終データポイントでは、変位も応力も零でなければいけません。このことによって、接触要素を使用しないでもジョイントを局所的に”セパレート”できるのです。モデルの収束性を保つため、実際に試験片に与えられた荷重を越えたレベルまでの荷重応答が入力されました。ボディマテリアルの部分での荷重を初期に過大評価するソリューションにおいてこのことは非常に重要なことです。


図5.ボディマテリアルのための応力−変位応答

燃焼ガスシール

燃焼ガスシールにおける非線形応答は、アセンブリ段階で円形断面が楕円断面へ塑性変形することによりもたらされます。この塑性変形によって、高圧力シールとしてシリンダヘッドとライナーの形状を支えることが可能なのです。燃焼ガスシールの除荷応答は断面での変形における弾性部分が復元することによるものです。燃焼ガスシールに関しても上記と同様の方法によるデータがANSYSに入力されました。 ガスケット材料オプションの利点として、初期オフセットパラメータによって荷重曲線を右へスライドできることがあります。実機の場合、アセンブリの過程において最初にガスケットがシリンダブロックに装着された後にシリンダヘッドがガスケットに装着されます。ここで、二つの理由からヘッドは燃焼ガスシールのみに接しています。燃焼ガスシールはボディマテリアルよりも厚く、又、ライナーは”ライナー突出部”と呼ばれているようにブロックのトップ面から突き出るように設計されています。結果として生ずるシリンダヘッドとボディマテリアルとの間のクリアランスを材料定義における初期オフセットとして考慮することができます。この方法のほうが、接触要素あるいは拘束方程式によってクリアランスを考慮するよりも簡便であり、すべてのコンポーネントが接しているようにモデル化することができるのです。

力荷重ケース

ふたつの荷重ケースが解析されました。アセンブリ時の荷重による”アセンブリ”とアセンブリ時の荷重に加え最大シリンダー圧力を負荷する”アセンブリ+圧力”です。検定試験データは試験装置上で室温で得られたものであり、この検定のプロセスでは熱荷重によるケースは用いられませんでした。アセンブリ荷重は単一荷重ステップで扱われ収束解が得られるまで10から15の平衡イタレーションが必要でした。ガスケット材料における荷重と除荷とのスロープの違いから、シリンダ圧力荷重を二つの荷重ステップで負荷することが最も効率的です。最初の荷重ステップで本来の圧力値の5%を負荷することで穏やかに除荷のスロープへ入ることができます。次の荷重ステップ残りの95%を加えたフル荷重を負荷しました。いずれの荷重ステップも5回以下の平衡イタレーションで収束解が得られました。ガスケットジョイントの解析で用いられた対策の多くはシリンダ圧力の負荷による荷重変化を含むものでした。この解析が持つ非線形の経路依存性はシリンダ圧力のみを荷重とするソリューションを不可能なものとします。解析における後処理段階でアセンブリ荷重+圧力荷重による解からアセンブリ荷重のみによる解を差し引く必要がありました。この操作は、ポストプロセッサにおけるLCOPERコマンドの機能により遂行されました。後処理演算の結果としての荷重ケースはシリンダ圧力に起因するライナーの除荷を見極めるために用いられ、この除荷はヘッドガスケットジョイントを評価するための重要な指針のひとつにあげられます。

結果と検証

ISXモデルにおいて、三種類のガスケット、三種類のシリンダヘッド構造および二種類の突出レベルに関する検定試験が行われました。すべての要因からなる18通りの解析が実行され、2CPUのSun Ultra 60(450 MHz)を使用して、ひとつの組み合わせに関して12時間から20時間の処理時間を要しました。三種類のシリンダヘッド構造には実存するシリンダヘッド形状(以下、実ヘッドと記述)も含まれており、0.5インチと1.5インチの厚さを持つ二種類の鋼板も扱われました。形状や材料特性を精度良くモデル化できるという理由から、鋼板が純粋にモデルの検証目的で用いられました。解析モデルを検証するために用いられた三つの指針に関して記述いたします。 ”アセンブリ荷重”は、ジョイントがアセンブルされた後にライナーに掛かる全荷重を意味します。アセンブリ荷重は、ガスケットコンポーネントの剛性のみならず、ボディマテリアルがシリンダヘッドと接触する時間を決定付ける形状トレランスに最も敏感です。実験における計測はライナーにひずみゲージを取り付けて行われました。5ヵ所の計測点に関してモデルの結果が実験値と比較されました。すべてのモデルに関して解析値と実験値との違いは12%以内でした。 ”ライナー突出によるアセンブリ荷重レンジ”は、ライナーの突出量が最小時のアセンブリ荷重と最大時におけるアセンブリ荷重との差を意味します。この指標は、ガスケットコンポーネント、シリンダヘッド、シリンダブロックおよびライナーの剛性に敏感です。実ヘッドに関して3ヶ所の計測点でのこの指標を比較したところ、解析結果と実験値との違いは13%以内でした。 ”シリンダ圧力によるライナーの除荷”は、シリンダ圧力を負荷した際に起こるライナー荷重の減少量を意味いたします。後処理演算の結果として作成された荷重ケースにおける結果が解析値として評価されました。実験値としては、油圧によってシリンダへ最大シリンダ圧力を負荷して得られた結果が用いられました。この指標は、シリンダヘッド、ブロックおよびライナーの剛性およびガスケットコンポーネントの除荷時の剛性に敏感です。7ヶ所の計測点でのこの指標を比較したところ、解析値と実験値の違いはすべて18%以内でした。

ガスケット材料オプションは、大規模シリンダヘッドジョイントモデルに関して、妥当な解析時間で実験と良く合う結果をもたらします。材料定義は、非線形の応力ー変位応答を持つ広範囲のガスケット材料のモデリングが可能な十分にフレキシブルなものです。現時点では、この程度の規模のモデルでは、接しているコンポーネント間のすべての界面において節点パターンが一致するようなメッシュ分割が必要ですが、このために要する時間は全作業工程を極端に遅らせるものでないことは明らかでしょう。

<訳注1>
本稿で紹介するSOLID185のガスケット材料オプションは、元々は米国カミンズ社(Cummins,Inc.)のために特別に設計されたものですが、この機能はさらに改善されANSYS6.1において新機能として導入されました。ANSYS6.1での新規インターフェース要素であるINTER194あるいはINTER195をガスケット材料オプション(TB,GASKET)と併用することで本稿で紹介する機能をご利用いただけます。
<訳注2>
ANSYS 6.1ではガスケットとして適用されるインターフェース要素のために新たなメッシャーが開発されました。本稿で記載されているような、複雑な手順を用いなくとも接点パターンが一致する整合性のとれたメッシュを迅速に作成することができます。

本文はANSYS Solution Volume 4, Number 1 に掲載されております”Handling Non-linearities in GASKET MODELS”(Jonathan Raub,Technical Advisor, Cummins,Inc.)の内容を一部再構成し転載したものです。

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