[株式会社 日立製作所 日立研究所 寺崎 健 様]はんだ接合部の定量的断線寿命予測 -2-

目次

定量的断線寿命の予測方法

累積損傷モデル(従来手法)

最初に、断線寿命が要素寸法に依存する累積損傷モデルを説明します。この手法では、はんだのひずみから累積ダメージを計算して、疲労き裂を予測します。ひずみ解析には汎用の有限要素解析ソフトウェア(FEMソルバー)を利用し、累積ダメージを自社開発の解析ツールで計算します。

累積損傷モデルの手順を図1に示します。まず、解析対象の中で疲労き裂発生を許容するはんだ領域を同一寸法の要素に分割し、各要素に番号付けを行います。解析モデルは、汎用のプリプロセッサで作成します。次に、各要素のダメージを表す関数fiを初期値0にします。添え字iは要素番号です。関数fiは各要素にダメージが累積されることで増加し、値が1となったときにその要素が寿命に至る(除去される)ことになります。


図1 累積損傷モデルの手順

この解析モデルに対して、温度サイクル試験や機械的負荷試験を模擬したひずみ解析を実施して、各試験1サイクルあたりに各要素に生じる相当塑性ひずみを求めます。ひずみ解析には、汎用のFEMソルバーを使用します。各要素に生じた相当塑性ひずみの値から、1サイクルあたりに生じるダメージを式(1)で計算します。


ここで、 は、塑性ひずみ範囲と低サイクル疲労寿命の関係を示すCoffin-Manson則の係数です。


式(1)で求めたと各要素が既に受けているダメージ から、各要素が寿命に至るために必要なサイクル数を次式で算出します。


が最小となる要素がこの計算ステップで削除されることになるので、このステップで増加させるサイクル数の最小値となります。このとき、サイクル数が増加することで各要素のダメージは次式の様に増加します。


ここで、寿命に至った要素、すなわち関数が(1-e)に至った要素を除去し、再びひずみ解析を行います。eは累積ダメージが1に近い要素をまとめて削除するための変数で、解析精度に影響が無い0.05 〜0.1程度の値を使います。

次ステップのひずみ解析では、前ステップのひずみ分布などの解析結果は引き継がず、初期応力0とします。以降、上記の手順を繰り返すことで、各要素に累積されるダメージは線形被害則に基づいて評価され、寿命に至った要素が順に除去されることで疲労き裂が進展します。

従来の非線形破壊力学による疲労き裂進展解析手法と比較して、本手法は次の特長があります。

  • 初期き裂を仮定する必要がなく、複数の疲労き裂の進展経路を自動的に解析できます。
  • 疲労き裂進展に伴って、有限要素解析モデルを変更する必要がありません。
  • 疲労き裂進展特性を別途求める必要がなく、既存のCoffin-Manson則の係数を用いることができます。

このように、本手法は通常の応力解析と同様な容易さで疲労き裂進展挙動を求めることができます。

き裂進展寿命の補正方法

前述の累積損傷モデルでは、算出されるき裂進展寿命が要素寸法に依存します。これは、き裂先端近傍はひずみが急激に大きくなるひずみ特異場だからです。はんだを始めとする塑性変形する材料のき裂先端のひずみ特異場は、Hutchinson, Rice, Rosengrenによって理論的に明らかにされています(7)。この理論(HRR特異場理論)では、無限領域にある平面応力状態の二次元き裂(図2)において、き裂先端のひずみ成分は、次式の関数で表されます。


ここで、は、材料の相当塑性ひずみと相当応力の非線形関係を式(6)のべき乗則で近似した材料定数、は非線形破壊力学パラメータであるJ積分値、 は積分定数、は円柱座標系におけるき裂先端からの距離、は円柱座標系の角度に依存する無次元関数です。


J積分はひずみ分布の拡大率ですので、式(5)より、き裂先端のひずみは、き裂先端からの距離乗に比例することがわかります。式(5)は、無限領域にある2次元き裂先端近傍で成立するもので、3次元き裂を含む一般的なき裂形状に対してはき裂先端の漸近解にすぎませんが、材料の変形挙動を式(6)でモデル化する限り、任意のき裂形状に対して近似的に成立すると考えています。


図2 無限領域の二次元き裂

このHRR特異場理論を用いて、き裂先端近傍の各要素の相当塑性ひずみを理論的に求めることで、き裂進展寿命の補正方法を構築しました(4)。紙面の都合上、詳細な説明は省略しますが、要素寸法で算出された寿命は、式(7)で要素寸法の影響を排除した寿命に換算されます。


ここで、は要素寸法で算出されたき裂先端要素の相当塑性ひずみ範囲、はCoffin-Manson則の上限と考えられる寿命です。また、は式(8)で表わされます。


はそれぞれき裂形状と累積損傷の影響を補正する指数です。にはそれぞれ25 、0.05 、0.1を用います。
実際のはんだ接合部では、き裂先端の相当塑性ひずみ範囲がき裂の進展に伴い変化しますので、算出寿命の補正も損傷計算の繰返しj毎に行う必要があります。この場合、式(7)の補正式を式(9)、式(10)のように変更して使用します(5)。


すなわち、における寿命増分を式(9)により補正後の寿命増分に換算し、断線に至る繰り返し数sまでを累積して断線寿命を求めます。

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