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解析事例

導電性接着剤の均質化解析

半導体パッケージは、金属、樹脂およびセラミックスなどの様々な材料で構成される複雑で多種多様な不均質構造を有しております。それらをスケール(大きさ)に着目して考察すると、配線ピッチ等のナノメートルオーダーから、ヒートシンク等のマイクロ・ミリメートルオーダーにいたるまで、極めてスケール比の大きい部材・部品が混在しています。有限要素法(FEM)による解析では、このようなスケール比の大きな構造全体を詳細にモデリングすることは計算コストの面で現実的ではないため何らかの簡略化手法を用いることが効果的です。

Multiscale.Simでは、複雑な不均質構造を均質体に置換するための等価物性値を評価する均質化解析機能を有しております。ここでは、はんだに代用されるAg-エポキシ系導電性接着剤の均質化解析事例を紹介します。


図1. 半導体パッケージ解析における問題点

解析モデル

数値材料試験用の試験片ミクロモデル作成

半導体パッケージに用いられる導電性接着剤は、エポキシ系樹脂の中にAgフィラーを分散させた不均質構造を有します。フィラーに配向パターンがあれば、弾性特性にも異方性が発現しますが、薄い層で構成されることもあり実験で求めるのは困難が伴うため、FEMによる数値材料試験が有効です。

数値材料試験では、実構造をいかに正確にモデリングできるかが試験精度を高めるための大きな鍵になります。ここでは接着剤の微細構造を奥行き方向に複数枚、顕微鏡で観察し、画像処理によってMultiscale.Sim用のソリッドモデルに変換しました。数値材料試験では、樹脂とフィラーにそれぞれ温度依存性の材料物性値を定義しております。このモデルに対して、独立する6つの方向に各環境温度での数値材料試験を行い、得られた見かけの応答をカーブフィットすることで、異方性の弾性率と粘弾性の等価物性値をそれぞれ評価しました。


図2. 数値材料試験片モデルと作成までの流れ

解析結果

静的数値材料試験コンター

弾性材料を定義した際の数値材料試験結果(相当応力コンター)を図3に示しました。マトリクスと比較して剛性の高いフィラーを含有させた複合組織では、フィラーが受け持つ応力値が見かけの剛性と大きく関係しております。例えば、強く配置しているx方向の単軸ひずみ試験結果を観測してみると、高配向率モデルでは、もう低配向率モデルと比較して、フィラーに応力が集中している、すなわちフィラーが軸力を大きく受け持っている様子が確認できます。一方で、配向率の小さいy方向の試験結果では、両モデルともにマトリクスにも比較的大きな応力が発生しており、フィラーがみかけの剛性に寄与していない様子も確認できます。

このように数値材料試験では、実験では測定困難な微細領域(試験片内部も含む)の応力・ひずみの分布を詳細に評価することができるため、実験以上の知見を得ることができます。


図3. 弾性数値材料試験時の相当応力コンター
左が高配向率モデルで右が低配向率モデル

均質化解析結果(弾性係数)

6方向の静的単軸ひずみ試験によって取得された等価物性値の特性を図4に示しました。配向率の低いモデルでは、単軸・せん断方向ともに異方性が弱く擬似等方的に振舞っているのに対して、高配向率モデルでは、フィラーの配向している方向に強い異方性が表れている様子が確認できます。


図4. 弾性均質化解析の結果

均質化解析結果(粘弾性特性)

樹脂にクリープや粘弾性等の特性を定義すれば、速度依存性の材料応答も評価することができます。Multiscale.Simでは異方性の粘弾性材料構成則および、そのカーブフィット機能をユーザーサブルーチンにより実装しておりますので、材料試験から物性値評価までの一連の流れを本ツール一つで完結することができます。
図5は低配向率モデルに対して、6方向の応力緩和試験を実施した結果です。弾性率同様に緩和特性にも異方性が表れておりますが、Multiscale.Simでは、高精度にこれらの応答をフィッティングできている様子が確認できます。


図5. 低配向率モデルの応力緩和試験とそのフィッティング結果

データ提供元

芝浦工業大学 苅谷義治 准教授

※この事例では、Ansysに加えて以下のライセンスが必要です。
マルチスケール解析ツール Multiscale.Sim®

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